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アップルはサブスクリプションに活路を見出せるか

2019/02/15

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深まる中国市場でのiPhoneの販売不振

中国スマホ市場で、アップルの退潮が一段と強まっている。2018年10-12月期のiPhoneの販売高は、前年同期比20%もの大幅下落を記録した。1月にアップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は、中国市場での販売不振は、中国経済の減速によるものと説明していた。しかし、同期の中国でのスマホ販売は、全体では前年比9.7%の下落にとどまっていることから、iPhoneの販売不振は中国経済減速の影響だけでなく、顧客がアップルから他社に流れた面も相応にあった。中国スマホ市場でのiPhoneのシェアは、2018年10-12月期に11.5%と、前年同期の12.9%から低下している。

iPhone Xの2017年型モデルの価格が割高だったことで、買い替えサイクルが長期化したこと、2018年型モデルでは新機能が期待外れだったこと、等が販売不振の背景とも指摘されている。

有料のニュース購読サービスでメディアと対立

こうしたなか、アップルは、サービス事業に新たな活路を見出す戦略をとり始めている(本コラム「成長戦略の見直しを迫られるアップル」、2019年1月17日)。その手始めとされるのが、有料のニュース購読サービス、いわゆるサブスクリプションだ。利用者は月額料金で、参加するすべての報道機関のニュースが読み放題となる。iPhone向けの無料サービス「アップル・ニュース」の有料サービスとして、月額10ドル程度で、年内の開始を予定しているという。このサービスは、「ネットフリックスのニュース版」とも呼ばれている。

ところが、有料のニュース購読サービスの収益配分(レベニューシェア)を巡って、アップルは大手メディアと対立しているという。それは、アップルが、購読料収入のおよそ5割を自社の取り分にすると提案しているためだ。残る半分の購読料収入は、利用者の購読時間によって、ニュースを提供したメディア各社に分配される枠組みが想定されているという。

一般的なアプリ配信サービスの手数料は、最大でも収入の3割とされる。これと比べて、およそ5割とするアップルの取り分は、法外に映るのだろう。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などは、この収益分配の条件に関する不満を主な理由に、アップルへのコンテンツ提供にまだ合意していないという。

さらに、大手メディアにとっては、既存の顧客が、自社よりも料金が安いアップル・ニュースに流れてしまうことも懸念している。ちなみに、月間購読料はニューヨーク・タイムズ紙が15ドル、ウォールストリート・ジャーナル紙は39ドルだ。

また、一部の報道機関にとっては、クレジットカードや電子メールなど、購読者の情報にアクセスできない可能性が高いことも、アップルへのコンテンツ提供をためらう要因だという。顧客データベースを構築し、販促につなげたい報道機関にとっては、こうした個人データを是非取得したいところだ。

アップルは年内に、このニュース購読のほか、独自の動画配信など、複数の新規サービスを立ち上げる計画だ。さらに、アップル製品のユーザーを対象に、有料サービス会員数を現在の3億6,000万人から2020年までに、5億人にまで引き上げることを目指しているという。

アップルは、iPhoneでのブランド戦略、強気の価格設定戦略を、サービス事業でも継続しようとしているかのようにも見える。しかし、そうした戦略が上手くいくかどうかは不透明だ。iPhoneの成長に限界が見え始めるなか、サービス事業を拡張させる戦略にも躓いてしまえば、アップルの将来見通しは一気に厳しいものとなるかもしれない。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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