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銀行スマホ決済『Jコインペイ』で大競争時代に

2019/02/18

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初の銀行大連合のスマホ決済システムが稼働

各種報道によると、みずほフィナンシャルグループは、スマートフォンでQRコードを読み取るなどして決済する、独自のサービス「Jコインペイ」を今年3月に開始する。千葉銀行、西日本シティ銀行、北洋銀行、七十七銀行、常陽銀行、京都銀行、伊予銀行、肥後銀行といった地方銀行50行強、つまり地方銀行の大多数が参加する。信託銀行などを含めた銀行全体では、約60行の規模に達し、巨大銀行スマホ決済システムとなる。みずほフィナンシャルグループ傘下のみずほ銀行が3月1日にサービスを始め、3月25日から他行も順次導入していく。さらに、アリペイとも提携するという。

Jコインペイは、各行に預金口座を持つ個人が利用できる。スマートフォンの専用アプリに、みずほ銀行や地銀の口座からお金をチャージして使う。飲食店や小売店などで支払いができるほか、利用者間では手数料なしで送金もできる。QRコード以外にも、電話番号、LINEのIDで使うことができる。加盟店が売り上げに応じて支払う手数料は、現在、2~5%程度でクレジットカードの手数料を下回る水準に設定される見通しだ。

銀行スマホ決済は信頼感が武器

Jコインペイの開始を受けて、今後は以下の3点に特に注目していきたい。第1は、先行する乱立したネット系、通信系等のスマートフォン決済システムとの競争の行方だ。QRコード決済を用いたスマートフォン決済では、楽天ペイ、オリガミペイ、LINEペイ等が先行した。最近では、後発のソフトバンクとヤフーが共同設立したPayPay(ペイペイ)が、利用者に計100億円を還元する大キャンペーンを展開するなど、先行グループに切り込んできている。このように、スマートフォン決済を巡る競争は大乱戦の様相となっている。まさに、そうしたタイミングで、今回の銀行のスマホ決済が始まるのである。

ところが、利用者に対する大盤振る舞いのポイント還元に加えて、先行グループの間では、加盟店の手数料は無料化とすることが既に業界標準となっている。こうした中、おそらく利用者に大幅なポイント還元でサービスをすることなく、また、加盟店の手数料を、クレジットカードを下回る水準に抑えるとしても無料にはしない、このJコインペイのシステムが、今後どの程度加盟店を拡大し、また利用者を広げていくことができるかは不透明だ。先行する競争相手に対する唯一の武器は、銀行が運営するという信頼感だけだろう。

第2の注目点は、MUFGの出方だ。MUFGも2017年に独自のブロックチェーンに基づく「MUFGコイン」の発行計画を発表しながら、未だ実現していない。今回、みずほフィナンシャルグループに、銀行連合でのスマートフォン決済システムで先行を許してしまったのは、MUFGにとって大きな打撃だろう。

MUFGが今後、独自のスマホ決済を導入するのか、それとも、Jコインペイの連合に加わるのかが注目される。独自のスマホ決済を導入する可能性の方が高そうだが、その場合、Jコインペイによって、既に他行との連携の道が大きく閉ざされた感がある中、どの程度、個人や小売店に広く受け入れられていくかは不透明だ。

日本と中国の個人データ争奪戦の起点にも

第3の注目点は、Jコインペイとアリペイとの連携の行方だ。今回の連携の内容は、Jコインペイの加盟店でも中国人観光客がアリペイを利用できるようにすること、と推察される。これは、アリペイの利用者を取り込むことで、Jコインペイが加盟店を一気に拡大していくための戦略だろう。

現在、日本でアリペイでの支払いができるのは、中国の銀行に口座を持つ、中国人観光客などに限られる。しかし、アリババは以前から、日本人が利用できるサービスを日本で始めることを虎視眈々と狙ってきた。その実現には、アリババが日本での決済会社を買収するか、日本の銀行に協力してもらって日本で自ら運営会社を設立する必要がある。アリババは2018年春にも日本で決済サービスを始めるとの報道が、2017年に流れたことがある。しかし、その後、日本の銀行は日本人向けのアリペイ決済開始に協力しない方針、と報じられ、アリババの日本進出は頓挫している。

その背景には、アリペイを通じて日本人の商品購入履歴などの個人データが中国に流出してしまうことを警戒した日本政府の働きかけがあったのかもしれない。今回の連携でも「決済情報に含まれる個人情報を国外に流出させないため、アリババと決済情報は共有しない」とみずほフィナンシャルグループは説明している模様だ。

しかし、アリババは、今回の連携を足掛かりに、いずれ日本人が利用できるサービスの開始へと繋げていく戦略を持っている可能性もあるのではないか。そうなれば、個人データを巡って、日本と中国の国家間のデータ争奪戦が本格化していくかもしれない。

このように、今回のJコインペイ導入は、スマートフォン決済を巡るネット企業と銀行との間、あるいは銀行同士の間での大競争を生むとともに、国境を越えた日本と中国の個人データ争奪戦の起点となる可能性もあるだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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