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独自の進化を遂げた中国のネット・サービスと5G

2019/02/20

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ネット・サービスの世界はダブル・スタンダード

グローバル市場の大きな助けのもとで奇跡の高成長を遂げた中国は、現在、米国との熾烈な貿易戦争で、成長戦略の軌道修正を迫られている。中国の通信機器メーカー大手のファーウェイ(華為技術)の製品などは、米国市場のみならず、米国からの強い外交圧力のもと、多くの国から締め出されつつある。米国、あるいはその友好国との対立が長期化する場合、中国のさらなる成長には国内市場の一段の深耕に加えて、新たな海外市場の開拓が不可欠となる。

中国にとっての新たな市場として有力なのは、「一帯一路」構想で対象となっているアジア、欧州、アフリカの新興国だろう。中国がそうした国々を自身の経済圏に取り組んでいくことで、世界経済は、中国を中心とする新興国経済圏と先進国を中核とする経済圏とに二分されていく可能性もあり得る。それぞれが、ブロック化され、異なるルールが適用されていけば、まさに世界経済は分裂し、世界経済の成長に大きな足かせになっていく可能性も考えられるのではないか。

ただし、こうした世界経済のダブル・スタンダード(二重標準)化は、既にネット・サービスの分野では起こっている。中国のネット・サービスは、他国とは異なる独自の進化を遂げてきたのである。

当初は、中国も国内市場で外国ネット企業を歓迎していた。しかし、2008年の北京五輪を機に、中国の指導者が言論統制を強めた。ネット統制の実効力を高めるには、外国のネット企業よりも中国のネット企業の方が、より都合が良いだろう。そこで、フェイスブックとツイッター、ユーチューブは2009年に、中国国内での利用がブロックされ、グーグルは2010年に、検索結果の検閲に否定的な態度を表明した後にブロックされた。決済サービスでは、ペイパル、ビザなどがブロックされている。

中国型モデルは海外では苦戦

外国のネット企業に代わって、中国国内市場を席巻していったのは、中国企業だ。グーグルに代わって、中国のネット検索市場はバイドゥが独占していった。電子商取引では、アリババが米競売大手のイーベイにとって代わった。決済サービスは、中国企業のアリペイとウィーチャット・ペイが独占状態にある。

しかし、ひとたび中国国外に出ると、こうした中国企業も明らかに苦戦を強いられている。調査会社センサー・タワーによると、テンセントの対話アプリ、ウィーチャットは、2012年以降、アップルのアプリ配信・販売サイト「アップストア」を通じて、世界で約3億5,000万回ダウンロードされた。しかし、このうち約83%が中国のユーザーによるものだったという(注1)。

中国のネット企業が海外市場で苦戦している背景には、これらの中国企業が中国共産党と結びついており、個人データがそこに流れているのではないかという疑念が、海外利用者の間に根強いことがあるだろう。

他方、中国企業のネット・サービスには、米国企業のサービスにはない、高い利便性がある。例えば、スマートフォン上の一つのアプリだけで、ネットショッピング、チャット、銀行口座管理、ネット閲覧・検索、決済、投信や保険商品の購入などが全てできてしまう。米国企業の提供するネット・サービスであれば、それぞれ別々のアプリを立ち上げる必要がある。

中国企業の便利なネット・サービスに慣れた中国の利用者は、仮に米国企業の提供するネット・サービスが利用可能となっても、中国企業のネット・サービスを利用し続けるのではないか。ただし、中国企業のネット・サービスの高い利便性は、個人データを効率よく収集し、政府などが管理、分析するのに適したシステムと一体であるかもしれない。

中国型モデルの採用は世界に広まるか

このように、中国とそれ以外の国との間で、世界のネット・サービスは既に二分された状態にある。中国型ネット・サービスのモデルは、個人データが政府に監視、管理されているという問題点がある一方、それと引き換えに高い利便性が与えられている。さらに、大量のデータが集約され、分析されることによって、医療、自動運転など多くの分野で、利用者が高い精度のサービスを受けることが可能となる。まもなく本格化する5G(第5世代移動通信システム)のもとでは、データの収集、分析、利用は格段に広がり、そのもとで、いわば中国型モデルの優位性は一段と高まる可能性があるだろう。その場合、世界は中国型モデルとそれ以外のモデルとの間で選択を迫られ、結果的に、中国型モデルを採用していく国が世界に広がっていくことも考えられる。

フェイスブックのグローバル政策・コミュニケーション部門トップに就任した、元英副首相のニック・クレッグ氏は、2019年1月の講演で、以下のような発言をしている(注2)。「中国型のデータの大量収集・分析は、人の健康状態が良くなるといった大規模な改善につながる可能性がある。だが同様に、より邪悪な目的に使われる可能性もある」、「プライバシーの優先課題と言論の自由、技術革新、規模のバランスを図り、適切に規制されたハイテク業界にするのか、あるいは創意工夫を優先してプライバシーや個人の権利の基本的保証の一部を無視するのか、という選択だ」。

(注1)"The Internet, Divided Between the U.S. and China, Has Become a Battleground", Wall Street Journal, February 13, 2019
(注2)"The Internet, Divided Between the U.S. and China, Has Become a Battleground", Wall Street Journal, February 13, 2019

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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