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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

春闘ベアは想定以上に下振れへ

2019/03/15

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ベアは前年を下回る

2019年春闘は、3月13日に集中回答日を迎えた。自動車、電機など主要産業での大手企業の妥結状況を見ると、前年を相当下回る賃上げ率が目立っている。事前予想以上に、ベアあるいは賃金全体の上昇率は下振れそうな状況だ。

ベアの数字を公表していないトヨタ自動車の賃上げは月額1万700円と昨年実績の1万1,700円を大きく下回った(約9%減)。賃上げ率は3.3%から3.01%へと縮小した。また、統一交渉を実施している電機では、ベアは月額1,000円で妥結した。これは、昨年実績の1,500円の3分の2の水準だ。日立製作所の賃上げ率は、昨年実績の2.3%から2.0%へと縮小した。

連合の神津会長は、「かつての春闘では代表銘柄の賃上げ水準が天井を形成し、すべてに波及する傾向があった。ここ数年は必ずしもそうではなく、とりわけ今年はその傾向があった」と総括している。各社がそれぞれの実状にあった方法を採用し、ベアに強くこだわる姿勢が弱まっている。

春季労働交渉第1弾となる自動車、電機の妥結状況から推測すると、今年の春闘のベアは0.4%前後に落ち着くのではないか。これは、昨年の0.5%程度を大きく下回る水準であり、当初見通しからかなり下振れそうだ。

今年は、6年ぶりに政府が春闘に介入しない、「非官製春闘」となった。政府からの賃上げ要請がなくなったことが、ベアの下振れを招いている可能性はあるだろう。しかし、それ以上に大きな影響を与えているのが、昨年末以来の内外経済の悪化懸念である。労働者は雇用環境悪化に備え、無理に高い賃金上昇率を要求しない雰囲気になっているのだろう。

賃金・物価の低位安定が続く

他方で、2001年以降の正規社員の有効求人倍率と基本給の上昇率(ベアに相当)との平均的な関係に照らすと、現在の有効求人倍率のもとでは0.5%強程度の水準が妥当値のめどとなる。今春のベアは、事前予想比下振れるとしても、この妥当値から大きく外れている訳ではない。

ベアが下振れすれば、賃金上昇を起点として物価上昇率が高まっていくとの期待が一段と低下することになるだろう。しかし、仮に下振れるとしても、ベアが現在の経済環境に照らして概ね妥当な水準の範囲内にあることに変わりはない。そのため、物価上昇率も大きく下振れることはなく、概ね経済環境に見合った低位安定の状況が続くに過ぎないだろう。

ベアの下振れ傾向を受けて、10月の消費税率引き上げに対する個人消費の耐性が大きく低下する、あるいはそれをきっかけに、再び日本がデフレに落ち込むとの懸念が浮上する可能性も考えられるところだ。しかし、それを口実に、消費税率引き上げの先送り、財政拡大、追加金融緩和などの政策変更を正当化するような議論は正しくないだろう。

政府の強い関与もあって、近年の春闘はベアに過度に注目が集まった感がある。しかし、より幅広い視点から雇用者の処遇改善や労使双方の利益となる両者の良好な関係を模索するような春闘となっている点は評価したい。「脱官製春闘」は望ましいことだ。

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