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日米貿易協議はいつ始まるか?

2019/03/20

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米大統領経済報告は「日米FTA」と表記

3月19日に公表された米国の大統領経済報告において、対日貿易協議に臨む米政府の厳しい姿勢が改めて確認された。その中で特に注目されるのは、「日米貿易協議では自由貿易協定(FTA)締結を目指す」と、米政府によって正式に位置付けられた点だ。昨年9月の日米首脳会談後に、日本政府は、「日米間で締結を目指すのは、物品の関税等を議論するTAG(物品貿易協定)であって、サービス部門なども含む、より広範囲のFTAではない」と説明していた。これは、FTAという言葉に、日本側が農産物の関税引き下げなどで大幅な譲歩を迫られる、との悪い印象を持つ向きが少なくないことへの配慮だろう。しかし、今回の大統領経済報告では、こうした日本政府の説明が、あっさりと覆されてしまったのである。米国政府が、物品のみならずサービスでの合意も目指している場合、具体的にどの分野に関心を持っているのかは明らかではない。ただし、同報告では、「関税・非関税障壁が米国の物品やサービスの輸出に立ちはだかっている」と日本を強く批判していることから、農産物の関税引き下げに加えて、米国からの輸入に対する非関税障壁を議論したい、ということだろう。その場合、米国からの自動車輸入を阻んでいると米政府が考えている、自動車の認証制度の見直し、などが主に想定されているのではないか。

また、同報告では、日本が豚肉や牛肉の輸入品に課す関税率について、米国と比べて、「オーストラリアなどの競合国に対する税率はかなり低い」と指摘している。これは、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が発効した結果、そこに加わらない米国にとっては、対日輸出の条件が悪化していることを意味していよう。日米貿易協議では、豚肉、牛肉、あるいは農産物の米国の輸出について、TPP加盟国に比べて不利な条件とならないよう、日本に対して関税率の引き下げを米国は強く要求するだろう。実際、同報告では、「FTAを結べば競争条件を対等にできる」と強調されている。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、対日貿易協議では農業分野を中心に早期の取りまとめを目指す意向を示している。

日米貿易協議は4月に開始か

ところで、同報告では、日本の自動車市場への言及がなかった点が予想外であった。しかし、米国政府が日本の対米黒字の8割程度を作り出している自動車分野(含む部品)に関心を持っていないということでは決してないはずだ。米国政府は、自動車輸入全体に、最大25%の追加関税を課すことを検討している。対日自動車についても、これで対応する考えなのかもしれない。しかし一方で、米政府が、日本の対米自動車輸出については自主規制(数量規制)を求める可能性も依然として残されている。

日米貿易協議は、1月下旬から制度的には始めることが可能であった。しかし、現時点でも、なお正式な協議開始の時期が決まっていない背景には、米中貿易協議が予想以上に長引いていることがある。米政府は、米中貿易協議を日米貿易協議に優先させる考えだ。日米貿易協議では、米国側を代表するライトハイザーUSTR代表は、3月にも日本を訪問して交渉を始めたい、との考えを示していたが、その実現は難しくなった。

日米貿易協議は4月中に始まる可能性を現時点では見ておきたい。日本政府は、茂木経済再生相が4月以降にワシントンを訪問して交渉を始めたい、という意向を米国側に伝えているとされる。その場合、5月下旬に予定される日米首脳会談までに、米国政府が協議の進展を目指すのかどうかが注目されるところだ。短期的に協議の進展を目指す場合には、米政府が当初から強い姿勢で対日貿易協議に臨んでくる可能性が考えられる。

そうではなく、米政府が、じっくりと腰を据えて対日協議に臨んでくる場合には、短期間での合意を目指さない分、日本側が容易に受け入れがたい、より厳しい条件を日本側に突き付けてくる可能性も考えられるところだ。

ライトハイザーUSTR代表は議会公聴会で、対日協議で通貨安誘導の制限など、為替を議題とすることに言及している。一方、トランプ米大統領は、日米貿易について、「これまではとても不公平な状況だった」と最近でも述べている。こうした点から、米中貿易協議の行方次第で、日米貿易協議がどのような日程になるとしても、米国側が厳しい姿勢で対日交渉に臨んでくることに変わりはないだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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