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日銀短観は追加金融緩和に直結せず

2019/04/01

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非製造業の業況判断DIは比較的安定

4月1日に公表された日銀・短観(3月調査)で、大企業製造業の業況判断DIは、2四半期ぶりの悪化となり、また前回比悪化幅は、事前予想を上回って6年3ヶ月振りの水準にまで達した。これは、輸出統計、鉱工業生産統計等で既に確認されている、昨年末から年初にかけての外需悪化による景気減速を裏付けるものとなった。しかしながら、今回の短観は、日本が本格的な景気後退に陥ったことを決定づける内容とは言えない。また、日本銀行の追加緩和策実施に直結するものではないだろう。

大企業製造業の業況判断DIは、現状で前回比7ポイントの下落と、事前予想の5ポイント程度の下落を上回る下落幅となった。また、先行き判断も4ポイントの下落と、当面は景気の調整局面が続くことを示唆している。しかし、非製造業の業況判断DIは、大企業の現状で前回比3ポイントの低下と、比較的小幅な下落にとどまっている。また、非製造業の中堅・中小企業では、小幅に改善している。これらは、足もとでの外需の悪化が、本格的かつ持続的な内需の悪化へと未だ波及していないことを示している。

ちなみに、2008年の本格的な景気後退入りの前には、製造業の業況判断DIと並んで非製造業の業況判断DIも顕著に下落していたが、現状ではそれはみられていない。

企業の収益環境は悪化へ

また、内需が比較的安定を維持している点は、設備投資計画にも表れていよう。今回初めて示された2019年度の全規模全産業設備投資計画は、前年度比-2.8%とマイナスからのスタートとなったが、過去(2000~2017年度)の平均値(3月調査)を依然上回っている。外需悪化によって景況感が顕著に低下した大企業製造業でも、2019年度の設備投資計画は前年度比6.2%と過去の平均を大幅に上回っている状況だ。

他方、年末以降急速に悪化した外需の先行き見通しについても、企業はそれほど悲観的にはなっていない。大企業の2019年度輸出計画は、0.5%とプラスとなったことに加えて、年度下期には持ち直す見通しとなっている。企業は、年度後半の外需持ち直しを予想しているのだろう。

ただし、昨年末から年初にかけての外需悪化が、企業の経営環境、マクロ経済環境に与えた影響が軽微であるとは言えない面もある。それは、製品需給判断DIの大幅悪化と価格判断DIの低下に表れている。企業にとってはより値上げがし難い状況になったのである。他方で、雇用人員判断DIは、労働需給が極めて逼迫した状況にあることを引き続き示す中、人件費の増加が企業の収益見通しを厳しくしている。その結果、2019年度の経常利益見通し(全規模全産業)は、-0.7%と、前年度の-1.5%に続き、2年連続のマイナスとなった。こうした収益環境の悪化が、今後設備投資の下振れに繋がるリスクは残されている。

日本銀行は追加緩和策をできるだけ温存する

製品需給判断DIの大幅悪化や価格判断DIの低下は、基調的な物価上昇を妨げることとなり、日本銀行が掲げる2%の物価安定目標の達成をより困難にするだろう。しかしながら、今回の短観の結果が、日本銀行の追加緩和策実施に直結する可能性は高くないと思われる。もはや、2%の物価安定目標の達成の是非など、物価環境が日本銀行の金融政策を決める重要な要素ではなくなった、と考えられるためだ。日本銀行は、効果が期待できない一方で副作用が懸念される追加緩和策をできるだけ実施したくないと考えているだろう。また、追加緩和余地が限られる中、追加緩和策をできるだけ温存する戦略だろう。

最終的に、追加緩和策の実施を余儀なくされる条件としては、①内外景気の本格的な後退局面入り、②1ドル100円を超えるような円高進行、③政府の巨額な景気対策実施、の3つが考えられる。現状では、この3つとも満たされていない。

日本銀行は、今回の短観の結果が、市場での追加緩和観測を強め、いわば追加緩和の催促相場へと発展することを警戒しているだろう。それを避けるため、日本銀行は、短観の調査結果の中でポジティブな側面を強調するような情報発信に注力するのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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