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低迷するICO(新規コイン公開)市場と質的変化

2019/04/04

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ICO市場の成長に急ブレーキ

一時期は活況を呈していたICO(新規コイン公開)市場は、現在、非常に低迷した状況となっている。TokenDataの調査によれば、2019年第1四半期に、ICOを通じた資金調達額は世界全体で1.2億ドル程度で、これは2018年の同時期の69億ドルと比べて、実に60分の1以下の水準だ。月ごとの調達額をみると、ピークは2018年2月の25億ドル超であり、それ以降、ほぼ月を追うごとに資金調達額は低下してきている。ICOで用いられるデジタル権利証であるトークンの時価総額は、ピークでは240億ドル程度にまで達したが、現在では、50億ドル程度まで減少したという(注1)。

TokenDataによると、2017年以降に確認された2,500件のICOのプロジェクトのうち、55%程度は資金調達に失敗している。また、資金調達に成功したICOの中でも、現在のトークンの価格が発行時の価格を上回っているものは15%に過ぎないという。ICOを通じて企業が資金を調達でき、それを購入した投資家が利益を得ることができる確率は高くない。米証券取引委員会(SEC)など金融当局によるICOへの規制強化と、仮想通貨市場の低迷の2つが、ICO市場が不調である主な背景だ。ICOは、新たな資金調達手段を企業に提供する一方、詐欺などの犯罪にも利用される。そこで、日本の金融庁も含めて世界の金融当局は、その対応に頭を悩ませてきた。しかし、仮に、このままICO市場がさらなる縮小から消滅へと向かえば、規制上の難しい問題も自然に解消に向かおう。

セキュリティー・トークンには増加の余地

ICOは2014年に始まったとされるが、広く認知されたのは2017年のことだ。そしてICOが活況になると、SECはICOで用いられるトークンの一部は証券法が適用される証券であるとして、規制の動きを強めていった。

世界の金融当局は、ビットコインなどを仮想通貨(Crypto currency)と呼ぶのをやめ、暗号資産(Crypto asset)と呼ぶようになっている。これは、ビットコインなどは決済手段としての利用が限られており、通貨との名称には値しない、との考えに基づくのだろう。

それとともに、ICOのトークンについては、有価証券と位置付けていき、証券法で規制していく方向性なのだろう。日本で言えば、資金決済法に基づく規制から、金融商品取引法に基づく規制へと移行していくのではないか。

ICO市場は低迷してしまったが、より有価証券に近い性格のICOのトークンについては、今後発行が増加する余地はあるのかもしれない。ICOのトークンは大きく2つに分けられるようだ。第1は、企業の資金調達の手段として、特定のサービスを受ける特典は付くものの、担保の裏付けや配当などはない「ユーティリティー・トークン」、第2は、原資産または配当や金利などのリターンがある「セキュリティー・トークン」だ(注2)。前者は、一般的なタイプのトークンであり、仮想通貨市場の活況とともに、トークンの価格上昇期待に支えられて増加した。しかし、ごく足元で価格が上昇したとはいえ、今後も仮想通貨市場が低迷基調を辿るのであれば、その発行余地は限られるだろう。これに対して後者は、より価値の裏付けがあり有価証券に近い性格のものだ。

後者のセキュリティー・トークンは海外でのみ発行されており、今のところは国内での発行実績はない。しかし今後は、価値がより明確であるこのセキュリティー・トークンの発行が増加する余地はあるだろう。それが正式に有価証券とみなされ、金融商品取引法の規制対象となれば、現在の仮想通貨取引業者は扱えなくなってしまうだろう。これを見越して、今のうちに証券業の登録を得ようとする仮想通貨取引業者が既に出てきているという。

ICO市場は、かなり低迷した状況になっているが、その性格を変えながらも、なお進化していく可能性は残されているだろう。

(注1)"Crypto Boom Goes Bust for Initial Coin Offerings", Wall Street Journal, April 1, 2019

(注2)「仮想通貨業界、証券業参入に本腰 ICO規制強化にらみ」、日経QUICKニュース、2019年3月20日

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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