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G20での議長国日本の狙い

2019/04/10

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世界経済減速への対応が最大のテーマ

20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)が、11、12日にワシントンで開かれる。今年は日本がG20閣僚会合の議長国を務める。6月には20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)及びサミットが日本でも開催されるが、今回はその前哨戦となる。

日本が強い指導力の発揮を本格的に目指すのは6月だが、今回の会議でも、日本は幾つかの議題を提示する。そのうち最大のテーマとなるのは、減速感が目立ち始めた世界経済への対応だろう。国際通貨基金(IMF)は9日に世界経済見通しを改定し、2019年の世界の成長率見通しを、3.5%から3.3%へと下方に修正した。

米中貿易戦争が、世界経済にとって大きなリスクであることは、多くの国の共通認識となっている。そこで、日本あるいはその他の国々は、米国と中国の双方に、貿易を巡る紛争の早期終結を求めることになろう。ただし、米中貿易協議は合意に向けた最終段階にあるともされている。両国は、「問題解決に向けた議論は進んでおり、合意が近い」との説明を他国に繰り返すだろう。他国が両国の協議の具体的な内容に踏み込むことはないと見られる。

他方、仮に米中貿易協議が近い将来に合意に達するとしても、日欧などには引き続き米国との2国間貿易協議が残されており、米国の保護貿易主義的な政策に悩まされ続けることになる。

経常収支の不均衡への対応を提起

そこで、日本は今回のG20で、モノの貿易やサービス取引の動向を表す経常収支の不均衡への対応を提起する、と見られる。まず、2国間の貿易・経常不均衡は、双方の貯蓄投資バランスで決まる面があるということを、トランプ大統領に認知させる狙いがあるのだろう。

トランプ大統領は、米国の貿易赤字は、貿易相手国の不公正な貿易慣行と不当な通貨安誘導策によってもたらされていると思い込んでしまっている。しかし、実際には、2国間での貿易不均衡は双方の貯蓄投資バランス、いわば需要供給バランスで生じている側面がある。

米国の貿易赤字の拡大は、大型減税やインフラ投資の拡大など米国政府による財政拡張策が超過需要を生み出し、需要が供給を上回って輸入が増加するから生じている面があること、つまり米国の政策運営にも原因があることを、日本政府は米国側に認識させることを考えているのではないか。また、それを通じて、直後に開かれる4月15、16日に始まる日米貿易協議で、米国政府からの強い要求をかわす狙いもあるのだろう。

他方、日本の経常黒字については、その多くが貿易黒字ではなく所得収支で生じており、その一部は、日本から米国への投資拡大によるものであることを、米国に説明するのではないか。加えて、日本の経常黒字も日本の内需不足によって生じている面が一部あると認めることで、米国側に内需促進を約束し、そうした国際公約を理由に国内での財政拡張的な政策を実施しやすくする狙いもあるのかもしれない。

他方、米国の保護貿易主義への対策として、欧州連合(EU)は、米国に対して世界貿易機構(WTO)に基づく多国間貿易主義を尊重するように促す考えだ。しかし、WTOを強く批判している米国側が、それに応じる可能性は低い。そこで、日欧は、WTO改革に前向きな姿勢を米国側にアピールすることで、米国のWTO離脱を回避させ、時間を掛けて米国を多国間貿易主義に引き戻す戦略ではないか。

日本は、6月に大阪で開かれるG20サミットで、国境を越えるデータ流通の国際ルールを、WTOを舞台にして構築することを議論する予定だが、その狙いの一つは、WTO改革を米国側にアピールすることだ。今回のG20でも、WTOでのデータ流通の国際ルールが多少議論されるかもしれない。さらに、そのもう一つの狙いとして、中国から海外へのデータ移転を促す、中国牽制がある。

質の高いインフラ投資もテーマに

世界経済減速への対応では、貿易問題と並んでもう一つ大きなテーマとなりそうなのが、インフラ投資の拡大だ。各国の事情に応じて、必要なインフラ投資の拡大を日本が呼びかけることになろう。それを背景に、「国土強靭化計画」など、日本国内でのインフラ投資の拡大を、国際公約として正当化する狙いもあるのではないか。

また、インフラ投資の拡大には、経済及び安全保障の観点から、中国をけん制する狙いもある。中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げて新興各国に資金を流しているが、それらを通じて各国を債務付けにしたうえで、経済的、軍事的な支配を強めている、と日米は強く批判をしてきた。そこで、G20では、新興国に対して「質の高いインフラ投資」の必要性を主張することで、中国の「一帯一路」構想を牽制する狙いがある。

それ以外にも、仮想通貨(暗号資産)によるマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与を阻止するための新規制が議題となる可能性がある。それらは、6月に日本で開かれるG20で合意される見通しだ。

このように、日本が議長国を務める今回のG20、20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議は、6月のG20あるいはG20サミットの前哨戦との位置付けながらも、世界経済減速への対応を軸に日本主導で議論が進められることになる。

ただし、それらの議論の背景には、米国保護主義への対応、日米貿易協議の対策、国内財政拡張策の正当化、中国の「一帯一路」牽制、中国のデータ囲い込みへの牽制など、日本の国益とも深く関わる策略が多く潜んでいると考えるべきだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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