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一帯一路フォーラムでは米中間の激しい情報戦

2019/04/16

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第2回「一帯一路フォーラム」を北京で開催

中国政府は、4月25日から27日に北京で「一帯一路フォーラム」を開催する。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」は、開始から6年近くが経過したが、その間に参加国数は大きく増加し、既に124か国と29の国際組織が中国と「一帯一路」協力文書に調印している。

今回のフォーラムは、2017年5月に開かれた第1回フォーラムに続く、第2回となる。中国外務省の説明によれば、すでに40人近い首脳を含む100以上の国の代表が参加することを確認しているとされる。

他方、米国のトランプ政権は、このフォーラムに高官レベルの代表団を派遣することをしない、と通告している。2017年の第1回には、米国は、ポッティンジャー国家安全保障会議アジア上級部長を派遣していた。また、同時期の4月23日に、中国海軍の創設70周年を記念して、山東省の青島(ちんたお)に各国の海軍の艦艇を招待して行われる国際観艦式にも、米国は参加しない。

不参加の背景として、後者については、南シナ海で中国が軍事拠点化を進めるなど、中国の軍事力増強への懸念がある。また、前者については、中国が「一帯一路」構想を通じて、経済圏及び軍事的な勢力圏の拡大を図ることへの強い警戒がある。

中国の「一帯一路」構想について、米国は以前から、中国は対象国にインフラ投資のために過剰な債務を負わせ、債務返済が滞ることを利用してその国に対して経済的、あるいは軍事的な支配を高めることを狙う「借金漬け外交」だと、批判してきた。

イタリアの「一帯一路」参加が米国を強く刺激

さらに、米国を強く刺激したのは、3月23日にイタリアが、「一帯一路」で協力する覚書を中国との間で交わしたことだ。中・東欧16か国は、「16+1」と呼ばれる中国-中・東欧協力枠組みの下で、中国との「一帯一路」構想の覚書に既に調印している。また、ギリシャ、ポルトガル、マルタなども、「一帯一路」構想のコミュニティに加わっている。しかし、G7(主要7か国)で初めてとなるイタリアの「一帯一路」参加は、欧州の中核地域にまで中国の影響力が強まることを意味するため、米国を強く警戒させることとなった。これが、米国政府が第2回フォーラムへの参加を見合わせることを決めた、最大のきっかけとなったのではないか。

米国不在の第2回フォーラムは、「一帯一路」に対する米国の強い批判に反論する場を、中国側に提供する。このフォーラムを利用して中国は、世界に「一帯一路」の正当性を主張し、さらなる参加を世界に呼び掛けることになるだろう。

楊中央政治局委員は、「現在までに『一帯一路』共同建設に参加したために債務危機に陥った国はなく、その反対に多くの国々が『一帯一路』協力に参加することで『発展できない罠』から抜け出した」と述べ、米国側の主張を真っ向から否定している。

中国は「一帯一路」の正当性を世界に強くアピール

また、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」で知られる「人民網」は、「一帯一路」を、「相互尊重、対等な協議、開放・包摂、互恵・ウィンウィンを堅持し、共に話し合い、共に建設し、共に分かち合うグローバル・ガバナンス観を堅持し、世界の相互接続を積極的に後押しし、経済グローバル化のより開放的、包摂的で均衡あるウィンウィンの方向への発展を後押している」、と国際協調を重視している旨の説明をしている。

また、今までの成果として、以下のような例を挙げている。「『一帯一路』を通じて、東部アフリカには初の高速道路ができ、モルディブには初の海を跨ぐ大橋ができ、カザフスタンは初の海への道を獲得し、東南アジアは現在高速道路を建設しており、国際定期貨物列車『中欧班列』はユーラシア大陸最長の協力の紐帯となっている。ケニアでは『世紀のプロジェクト』と称されるモンバサ―ナイロビ鉄道が完成し、現地に累計5万人近くの雇用を創出し、経済成長率を1.5ポイント押し上げた」。

3月25日に安倍首相が、「一帯一路」構想について、開放性や透明性といった条件を満たせば中国側と第三国での協力を実施したい、との考えを表明したことを受けて、中国外交部(外務省)の報道部は、「われわれは日本側がより積極的な姿勢で『一帯一路』に参加することを希望する。中国は各国と共に、共に話し合い、共に建設し、共に分かち合うという姿勢を堅持し、高い質と水準で『一帯一路』を進め、各国の人々により良く幸福をもたらすことを望んでいる」と説明をしている。米国の同盟国である日本に対しても、いわば秋波を送り、米国を揺さぶっているようにも見える。

今回のフォーラムの時期には、「一帯一路」構想の正当性を巡り、中国と米国との間で激しい情報戦が繰り広げられることになりそうだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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