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FRBへの政治介入から各中央銀行は何を学ぶか

2019/04/17

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ドラギ総裁がFRBの独立性に懸念を示す

トランプ米大統領は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を痛烈に批判し、さらに、FRBの政策に批判的な人物をあえて理事に指名する考えを示すなど、FRBの独立性を脅かす言動を繰り返している。4月14日にも、「FRBが適切な仕事をしていれば、株価は今よりも5千~1万ポイント高く、経済成長率は3%ではなく4%超になっていただろう」などと、根拠のない発言をしている。

交大統領が独立機関であるFRBに対して、露骨に政治介入をしていることに対して、米国内で批判の声はあまり高まっていない。これは、中央銀行が独立を維持することの重要性が、必ずしも米国民の間で理解されていないことを示唆しているのではないか。仮にそうであれば、非常に残念なことだ。

一方で、FRBの独立性に関する強い懸念は、海外から発せられている。先週末には、ワシントンでG20(20ヶ国・地域財務相中央銀行総裁会議)、IMF(国際通貨基金)年次会合が開かれたが、それらに参加した当局者が、こうした発言をしたのである。13日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、「世界で最も重要な国での中央銀行の独立性について、非常に懸念している」と発言した。さらに、「中銀は使命をまっとうするため、最善の方法を選ぶ自由が与えられるべきだ。それがなければ責任は果たせない」とも述べた。

また、シンガポールの副総裁兼中央銀行総裁は、「左派及び右派のポピュリズムが、各国中央銀行にも入り込んできた」「政治的圧力が、各国の中央銀行に対して財政政策に近い役割を押し付けようとする、かなり現実的なリスクがある」と発言している。

独立性への無関心の背景には物価安定

米国内で、トランプ大統領によるFRBへの政治介入、FRBの独立性に関してあまり関心が払われていない背景には、物価情勢が安定していることが大きく影響しているように思われる。

一般に、国民が、自国の中央銀行の政策に大きな関心を持ち、中央銀行の政治からの独立が重要だと考えるのは、インフレが加速して国民生活の安定が脅かされる局面か、金融危機が生じた際だろう。先進国では、長らくインフレが大きな問題となっていない一方、前回の金融危機発生から既に10年が経過して、人々の記憶は薄れつつある。

こうしたもとで、景気情勢にやや翳りが見え始めれば、物価安定を理由に、FRBに金融緩和の実施を迫るトランプ大統領の乱暴な姿勢も、国民あるいは議会の間で、それほど強い違和感を持たれない面があるのかもしれない。

このことは、中央銀行が、長らく物価安定の重要性をことさら強調してきたことの一種の弊害、という側面もあるのではないか。

過度に物価に縛られた政策は危険

しかし、「物価が安定しているから金融引き締め策は誤っており、金融緩和策が正しい」との短絡的な考えは非常に危険である。物価動向に過度に結びついた金融政策運営には、長い目で見て経済・金融の安定、国民生活の安定を脅かしてしまうリスクがあるからだ。

一般に、中央銀行が物価動向を考慮し、また物価目標を掲げその達成を目指して政策運営を行うのは、物価動向が将来の経済の不安定化のリスクに繋がるような「経済の不均衡」を示すシグナルを発している、との考えに基づいている。

ただし、「経済の不均衡」は物価動向に表れるとは限らないことに加え、「金融市場の不均衡」については、物価はシグナルを発しないのである。物価が安定している、あるいは目標値を下回るからと言って、金融緩和にバイアスがかかった金融政策運営をいたずらに長く続けていると、資産市場、金融市場のバブル生成とバブル崩壊を招き、経済の安定を長期間にわたって損ねることにもなりかねない。

これは、80年代後半以降に日本銀行がまさに経験した失敗である。また、この点から、日本銀行は再び同じ過ちを繰り返そうとしているのかもしれない。

経済・国民生活の安定確保が最終目標

日本銀行法の記述に従えば、金融政策の最終目標は、「国民経済の健全な発展に資すること」であり、これは他の中央銀行にも概ね当てはまる。中長期的な観点から、経済・国民生活の安定確保を目指すことこそが、金融政策の最終目標なのである。物価動向は、その達成のために参考にする一つの指標、中間目標に過ぎない。

物価の安定と中長期的な経済・国民生活の安定とが強く連動している時代には、物価動向に強く配慮した、あるいは物価目標にかなり重きを置いた金融政策運営が妥当であった。しかし、両者の関係は時代とともに変わり、現在では必ずしも当てはまらないだろう。

中長期的な経済・国民生活の安定確保を最終目標と考えるのであれば、各中央銀行は、物価動向あるいは物価目標に過度にとらわれない政策運営を心がけることが重要だ。そして、金融システムの安定など様々な事象に幅広く目配りして、総合判断に基づく金融政策運営を柔軟に実施していく、新たな枠組みを模索すべきではないか。

米国で中央銀行の独立性が揺らいでいることに懸念を示すばかりでなく、各国中央銀行はそこから、以上のようなことを学び取り、経済・国民生活の安定確保を最優先する姿勢に基づいて、金融政策運営の枠組みを果敢に修正していく勇気が求められるのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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