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米中貿易協議は最終段階にあるか

2019/04/08

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焦点は合意後の枠組みに

3月に米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表とムニューシン米財務長官が北京を訪問して、閣僚級の米中貿易協議が行われたが、焦点となった中国の構造改革をめぐる両国間の意見の相違が埋められなかった。4月3日から5日にかけて、今度は中国の劉鶴副首相ら中国代表団が訪米し、ワシントンで閣僚級の協議が開かれた。今後は電話会議が続けられるという。

協議の行方については、見方は交錯している状況だ。フィナンシャル・タイムズ紙などは、協議は最終段階にあるとの見方を示している(注1) 一方、トランプ大統領は「合意できるかできないか、予断を持ちなくない」と述べ、交渉が長期化する可能性も示唆している。

煮詰まってきたとされる合意内容については、未だ明らかにはなっていないが、米中間の貿易不均衡を是正するために、中国が農産物やエネルギー関連財などの米国からの輸入を大幅に増やすこと、中国が海外企業に対して市場開放を進めること、中国が国境を越えたデータ流通をより自由化すること、中国が知的所有権問題への対応を進めること、特に米国企業からの技術移転の抑制に中国政府がしっかり対応すること、国有企業改革等が含まれる見通しだ。

しかしフィナンシャル・タイムズ紙は、両国間での議論の中心は、もはや何で合意するかではなく、主に、①合意後に中国がそれを確実に順守するために米国側が求める枠組み、②今まで両国が掛け合った追加関税の扱い、の2点であるという。第1の点については、中国が合意内容を順守しなかった場合には、米国側が一方的に報復措置を取る権利を得ることを主張しているのに対して、中国側は、自らも同等の権利を持つことを主張し、対立しているようだ。ライトハイザーUSTR代表は、中国が合意を順守しない場合には、米国は追加関税など報復措置を中国に取る権利を持つのに対して、中国がそれに対する報復関税措置を講じる、あるいはWTO(世界貿易機構)に提訴する権利を認めないことを、強く主張しているという。

また第2の点については、米国は合意後も中国に課した追加関税の一部を維持したい考えであるのに対して、中国側は全ての追加関税を一気に撤回することを要求しているという。米国は、中国側の合意の履行に合わせて、段階的に追加関税を撤回する考えだ。その背景には、中国側は合意をしっかりと履行しないのではないか、といった米国側の強い不信感がある。

合意されても本質は一時停戦の継続か

いずれにせよ、閣僚級レベルの貿易協議で、両国が完全合意に達することは難しい。最終的な合意は、習近平国家主席とトランプ大統領との間の首脳会談でなされる必要があるだろう。

そこで、今後、米中首脳会談の日程が公表されるかどうかに注目しておきたい。日程が公表されれば、既に最終合意に近づいていることを示唆するだろう。しかし、今回の閣僚級レベルでの協議で両国の意見の相違が縮まらなかった結果、米中首脳会談の日程はしばらく決まらない可能性が高まっているように思われる。中国政府は、4月中に米中首脳会談を開いて最終合意を目指しているとされるが、その実現は次第に難しくなっている。首脳会談は、6月に日本で開かれるG20まで持ち越されるとの観測も出ている。

仮に6月などに米中貿易協議が最終合意に達するとしても、それは米中間の対立が完全に解消されることを意味するものではない。いわば、経済分野に限って一時停戦がなされるような性格のものではないか。両国間の対立の本質が、新旧大国間での覇権争いであるとすれば、経済分野も含めてそれが早期に終結することは容易に考えられない。合意は、中国にとっては、米国側の強い攻撃を交わすための、時間稼ぎの猶予期間が与えられるに過ぎないだろう。

しかし、トランプ政権が短期間で対中追加関税を導入していった昨年と比べれば、両国間で一時的にせよ合意がなされれば、米中間の対立が世界経済を脅かすリスクは、短期的には低下すると言える。

(注1) “US and China reach end-game on trade talks”, Financial Times, April 4, 2019

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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