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一帯一路のイメージアップを図る中国

2019/05/08

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「一帯一路」の公共性を強くアピール

2019年4月下旬、北京で第2回「一帯一路」国際フォーラムが開かれた。中国政府はこの場で、過去6年間にわたる一帯一路構想の成果や世界経済への貢献を強くアピールすると同時に、一帯一路構想を「債務のわな」と強く批判し続ける米国に対しても最大限の配慮を示すという、複雑な情報戦略を繰り広げた。
2017年5月の第1回に続く今回の第2回フォーラムには、世界150か国・地域から約5,000人が参加し、その数は第1回フォーラムを上回った。また、フォーラムに参加した各国首脳の数は37人と、前回の29人から増加した。

参加した首脳の中で目玉となったのは、イタリアのコンテ首相だ。2019年3月の習近平国家主席のイタリア訪問時に、両国は一帯一路構想の協力文書に署名している。イタリアは、G7(主要7か国)の中で初めて、一帯一路構想に参画した国となったのである。コンテ首相は北京に到着直後に、「習近平国家主席とローマで始めた実りある対話を再開する」とツイートした。

イタリアの一帯一路構想参画は、米国政府を強く刺激することになった。それは、中国が欧州地域に経済的な影響力を強めたことにとどまらず、米国の欧州地域での安全保障戦略にも影響を及ぼすためだ。ポンペオ米国務長官は4月初旬の北大西洋条約機構(NATO)外相理事会後の記者会見で、「すべての国は中国による『債務のわな』にどう対応するか決めなければならない。安全保障に関わる要素があるのは明白だからだ」と発言している。

中国の複数メディアが報じたところでは、フォーラム開催期間中に中国企業が各国と締結した提携契約の規模は、合計で640億ドル(約7兆円)余りに達したという。このように、中国政府はメディア報道などを通じて、フォーラムの成功を世界に広くアピールした。

他方で、一帯一路構想が中国にのみ利益をもたらすものではなく、関係する各国にとって広く利益となる、開かれたプロジェクトであることも丁寧に説明された。習国家主席はフォーラム最終日の記者会見で、一帯

一路構想は成果の共有、協議の平等性、責任の共同負担を引き続き大原則にする、と強調した。さらに、この構想を提唱したのは中国だが、機会と成果は世界すべてで共有すべきものであり、より多くの国・地域が参加することを望む、との考えを示している。

米国の「債務のわな」「借金漬け外交」批判に応える

このように、習国家主席が、一帯一路構想は世界すべてで共有すべきもの、いわば公共財であることをフォーラムでことさら強調したのは、同構想を「債務のわな」、「借金漬け外交」と批判する米国への反論であり、一帯一路構想のイメージを高める戦略であった。

米国が中国の一帯一路構想への批判を強め、また関係国の間でも同構想に慎重な姿勢が生じるきっかけとなったのが、2018年のスリランカの港湾譲渡問題だった。

スリランカ政府は、以前より南部ハンバントタ港の開発を進めていたが、13億ドルに上る建設費の大半は、中国からの融資に頼っていた。最高で6.3%とされたその高金利は、スリランカ政府の財政を圧迫した。債務返済に窮したスリランカ政府は、2017年7月に、中国国有企業に港の管理会社の株式の70%を99年間譲渡することで合意することを余儀なくされたのである。スリランカ政府は11億2千万ドルの取引の合意文書に調印し、この港は2018年1月に中国側に渡った。

これをきっかけに米国が繰り広げた一帯一路構想批判は、関係国にも影響を及ぼし、一帯一路構想に基づくインフラ投資プロジェクトの縮小や撤回を決める国が相次いだのである。第2回フォーラムでも、参加者数、参加首脳の数は前回と比べて増加したものの、一方で、第1回には参加したが今回は参加を見合わせた国、機関も目立った。それは、トルコ、ポーランド、スリランカ、フィジー、アルゼンチン、世界銀行などだ。こうしてイメージが低下してしまった一帯一路構想のイメージアップを行うのに、中国政府にとっては、第2回フォーラムは絶好の機会であった。

他方、中国政府は、米国政府の批判に対する反論を繰り広げるだけでなく、米国政府の批判に応える譲歩策もフォーラムで打ち出している。それは、相手国の債務が過剰であるかどうかをチェックする枠組みを作ることだ。中国財政省によれば、世界銀行などの基準を参考に作成し、対象国の20年先までの経済動向や財政リスクなどを計算するという。

財政省は第1回フォーラムに合わせて、新興国の債務状況への注意を呼びかける「融資指導原則」を発表している。今回打ち出された枠組みは、これを発展、強化したものとみられる。

ただし、融資状況を外部から確認するのは難しいとみられ、この措置によって一帯一路構想を「債務のわな」、「借金漬け外交」とする米国からの批判や、それに関わる対象国の不安が一気に沈静化することはないだろう。

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