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日米首脳会談で貿易問題は主要テーマになるか

2019/05/23

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日米首脳会談直前に急遽ライトハイザー代表が来日

5月27日に日米首脳会談が開かれる。日本側として最も警戒しているのは、トランプ大統領が、日米貿易問題について具体的な要求をいきなり日本に切り出すことだろう。そうなれば、日本政府が演出したい良好な日米関係、首相と大統領との良好な個人的信頼関係のイメージが損なわれ、政治的失点となる可能性もある。夏の参院選挙への影響も気になる。

日米首脳会談の直前になって、日本政府がこうした懸念を一段と強めるきっかけとなったのが、5月17日に、自動車・自動車部品への追加関税導入の是非に関する判断を、トランプ政権が6か月間先送りしたことではないか。これは、日本と欧州連合(EU)に6か月間の猶予を与え、その間に、対米自動車輸出を削減する方策に同意するよう、強く圧力をかける考えだ。つまり、この半年間の猶予は、米国が対日、対EUの交渉力を高めるための脅しの戦略、という側面が強いのではないか。

実際、トランプ大統領は、自動車の輸入増加は「米国の安全保障上の脅威だ」と訴えるとともに、6か月間の猶予期間内に日欧と貿易交渉を進めて解決策を得るよう、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表に指示した。さらに、期限内に合意できない場合には、追加措置を取る意向も示している。米ブルームバーグ通信は、日本とEUに対し、自動車輸出の数量規制導入を求める大統領令を検討している、と報じた。

ライトハイザー代表は、日米首脳会談直前の5月24日に来日し、茂木経済再生担当大臣と会談することが急遽決まった。これも、日米貿易協議を巡る、日米両国間の空気が俄かに変わったことを反映しているのではないか。

自動車輸出の数量規制はあるか

ライトハイザー代表としては、日米貿易協議を加速させるようにとトランプ大統領から指示されたことを受け、日米首脳会談までに多少でも協議を前進させる、あるいは日米首脳会談で日本側から合意に向けた前向きの話を引き出したい、との狙いがあるのではないか。

他方、日本側としては、日米貿易協議をできるだけ閣僚級協議に集中させることで、トランプ大統領が日米貿易問題で具体的な要求を日本に切り出すことを回避したい、という狙いがあるだろう。また、自動車輸出の数量規制導入を求める、との報道について、ライトハイザー代表に直接確認したところ、「そのような措置を求めることはない」という回答を得たと茂木大臣は説明している。この点についても、再度、本人に明確に確認をして、それを国内で強調したいところだろう。

日米貿易協議は、当初、米国側からの農産物の関税率引き下げ要求から本格化すると見られていた。TPP(環太平洋パートナーシップ)11協定の発効で、対日輸出環境の悪化に、米国の農家が不満を募らせているためだ。しかし、ここにきて、自動車輸出問題も当初から大きなテーマとなる可能性が俄かに高まっている。

米国政府は、日本側が強く否定する「数量規制」を直接求めることは避けるのかもしれないが、それでも、対米自動車輸出を削減する実効性の高い措置を自ら示すよう、求めるだろう。そうした措置を日本側が自ら示す形とすれば、国際貿易機関(WTO)のルールに抵触しないとの読みもあるのかもしれない。しかしそれは、実質的には「数量規制」と大差はないのではないか。

日米貿易協議は、必ずしも日本側が不利ではない、との見方も一部にあるが、実際には、米中貿易協議と同様に、協議は双務的ではなく、米国からの一方的な要求に終始するだろう。事務レベル交渉では、日本側は米国に対して、TPP交渉時に一度合意した、米国の2.5%の自動車輸入関税の撤廃を求めている。しかし、これは米国側から攻められるだけの交渉としないためのポーズではないか。日本にとっては、2.5%の自動車輸入関税の撤廃よりも、関税率が25%に引き上げられることを回避することが圧倒的に重要だ。

協議がこじれれば、トランプ政権は日本に対しても制裁措置を発動する可能性がある。ただし、中国とは異なり、日本がそれに対して報復措置を講じるという選択肢は事実上ない。この点から、米中貿易協議以上に、一方的な協議となりやすい。

日米両政府は貿易協議に関して、日米首脳会談までに具体的な合意に達することは難しいとして、共同声明の発表は見送る方針だ。しかし、自動車・自動車部品への追加関税導入の猶予期間が半年であることを踏まえれば、最長で半年、できれば数か月程度の間に合意に至ることをトランプ政権は目指し、日本側に強く圧力を掛けてくるのではないか。

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