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メイ首相辞任でより混迷を深めるブレグジット

2019/05/27

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6月に英保守党党首選を実施へ

英国のメイ首相は、5月24日に辞意を表明した。自身が欧州連合(EU)側とまとめあげた離脱案が議会で再三にわたり否決されたことを受け、もはや万策尽きた感があった。

メイ首相は、与党・保守党の党首を6月7日に辞任し、その翌週から党首選が正式に始まる。ブランドン・ルイス党幹事長は、7月中旬までに党首選を完了させたい考えを示している。次の党首が正式に選ばれた時点で、メイ氏は正式に首相の座を降りる。メイ首相の辞意表明で、ブレグジットの議論は再び振り出しに戻った感がある。「合意なき離脱」の可能性がより意識され、金融市場が揺さぶられるリスクが高まっている。

保守党の党首選出には2段階のプロセスがある(注1) 。第1の選挙では、保守党の一般議員約300人による「1922委員会」での投票により、候補者が2人に絞り込まれる。続いて、推計で12万4,000人程度の一般党員が、最終候補2人から党首を選ぶ。

保守党はEUを離脱する方針を掲げており、EUとの忍耐強い交渉を提唱する穏健派の候補者が勝利を収める可能性は高くないだろう。むしろ候補者は、合意案に反対してメイ氏を苦しめてきた議員らを取り込むため、強硬なブレグジットを目指す方針を主張する公算の方が大きそうだ。

メイ首相が辞意を表明した24日にハント外相、翌25日にはハンコック保健相と主要閣僚が相次いで立候補の意思を表明した。また、離脱問題で強硬派の代表格として知られ、既に名乗りを上げていたジョンソン前外相も、改めて出馬の意向を明言した。現時点では、10人以上の議員が出馬する見通しであり、乱立状態となっている。

「合意なき離脱」はメインシナリオではない

調査会社ユーガブの調査によると、英国成人の67%が、メイ首相の辞任の決断を「正しい」と回答した。保守党の支持者に限ると、その回答比率は71%にのぼる。さらに、新たな首相候補の支持率は、強硬離脱派のジョンソン前外相が28%で最大、それにジャビド内相が19%で続いた。ただし、ジョンソン氏は「悪い首相になる」と回答した人も54%でトップだったという。

この世論調査の結果にも示されているように、ジョンソン前外相が現状では最も有力な候補と考えられている。保守党議員の中では、最大野党労働党に奪われた票田を取り戻し、EU懐疑派の新党「ブレグジット党」の台頭を抑える上で、ジョンソン氏が最善の候補とみる向きが多いという。

強硬でないEU離脱を望む候補として、ジェレミー・ハント外相、ローリー・スチュアート国際開発担当相、サジド・ジャビド内相、マット・ハンコック保健相などがいるが、支持は広まっていない模様だ。英紙デーリー・テレグラフによると、2016年の国民投票でEU残留を支持したハント氏は、自身が首相になった場合、メイ氏がEUとまとめた離脱合意案をベースに対処する姿勢を示唆している。

他方で、本命のジョンソン氏は、「離脱協定によろうと『合意なき離脱』だろうと、我々は(離脱期限の)10月31日に離脱する」と言及し、首相に選出された場合、再度の離脱期限の延長をEU側に求めない姿勢を強調している。ジョンソン氏が実際に首相に選出されれば、金融市場は「合意なき離脱」の可能性をより意識することになろう。

しかし、ブレグジットの最終決定権を持っているのは首相ではなく、EUとの緊密な関係を志向する親EU体制派が過半数を占める議会だ。またEU側でも、「合意なき離脱」を避けたいとの意向が強いことは確かだ。

ブレグジットを巡る混乱は、なお長期化する見通しであるが、最終的には英国はEUから離脱してもEUの関税同盟に残るか、あるいはノルウェーのように、経済面でEUと非常に近い関係をとる可能性が最も高いのではないか。「合意なき離脱」は依然としてメインシナリオではなく、リスクシナリオの位置づけだ。

(注1)“In Race to Succeed Theresa May, Boris Johnson Leads the Field”, Wall Street Journal, May 25, 2019

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