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ポピュリスト政党が伸び悩んだ欧州議会選挙

2019/05/27

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親EU派の過半数維持で政策は大きく変わらないか

5月23日から26日まで国ごとに異なる日程で、5年に1度の欧州議会選挙が実施された。なお中間集計段階ではあるが、日本時間の27日に大勢が明らかになってきた。

2014年の前回選挙では、議会を主導してきた中道左派(社会民主進歩同盟)と中道右派(欧州人民党)は合計で56%の議席を確保したが、今回は43%程度にとどまり、過半数割れとなった可能性が極めて高い。これは、直接選挙が実施された過去40年間で初めてのことだ。

他方、躍進が予想されていたポピュリスト政党は現状の議席割合の30%を僅かに下回る29%程度の得票率となったと見られ、予想外に伸び悩んだ。

それに対して、大きく議席を伸ばしたのは、企業寄りのリベラル派、「緑のグループ(緑の党)」だ。既存の主要政党に対する不満が、極左あるいは極右のポピュリスト政党ではなく、穏健なリベラル政党に流れるという構図となった。欧州連合(EU)に懐疑的、移民受け入れに消極的、バラマキ政策を志向する、など極端な主張に偏りやすいポピュリスト政党の台頭に対する一定の警戒心が、選挙民の間で強まったことの表れと言えるだろう。

EU第3会派だった親EU派の「欧州自由民主同盟」と「緑のグループ(緑の党)」が票を伸ばしたため、最大2会派はこれら2政党と協調することで、基本的には親EU的な政策を維持できる見通しだ。ただし、「緑のグループ(緑の党)」の影響力拡大を映して、今後のEUの政策ではより環境問題を重視することになるだろう。

今回の選挙では、ポピュリスト政党が思いのほか伸び悩んだことで、EUの結束がさらに崩れる、財政拡張傾向がより強まるなどの懸念がやや緩和された。EU政策の基本路線が継承される見通しとなったこととも合わせて、金融市場には全体的には好材料となったのではないか。

イタリアなどではEU懐疑派が躍進

それでも国ごとの結果はまちまちである。ポピュリスト政党が大きく躍進したのがフランスだ。マクロン仏大統領は、今回の選挙をEUへの賛否を問う選挙と位置付けていたが、マクロン大統領が率いる共和国前進は、ルペン氏が率いる極右政党・国民連合に僅差で敗北した模様だ。

ドイツでは、メルケル首相を支える連立与党の社会民主党(SPD)は、支持率を大きく落とした。前回2014年の27.3%から15%程度へと半減近くに落ち込んだと見られる。この結果を受けて、社会民主党内は、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教民主同盟(CSU)との連立を解消する動きへと広まる可能性もあるだろう。ドイツでは、緑の党が支持率を前回10.7%から今回20%程度へと倍増させたと見られる。これに対して、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率上昇は、比較的小幅にとどまった見込みだ。

英国では、「ブレグジット党」が全体の3分の1程度の支持率を得て圧勝し、第1党となった可能性が高い。第2位が自由民主党、第3位が最大野党・労働党だろう。メイ首相率いる与党・保守党の支持率は10%を割り込み、第5位に落ちたと見られる。

イタリアでは、ポピュリスト政党が明暗を分けた。極右政党「同盟」の得票率が34%程度に達し、第1党となるのが確実となった。同盟は既存の欧州連合(EU)の体制や移民を批判している。

一方、18年3月の総選挙で第1党となった左派ポピュリズム(大衆迎合主義)「五つ星運動」の得票率は17%程度に落ち、第3勢力に後退したとみられる。両党はイタリア国内で連立政権を組み、EUの財政規律や移民政策などに反対してきた。特に同盟は、雇用創出や企業活動の活性化にはEUのルールを改正して歳出拡大をする必要があると主張している。「同盟」の躍進により、イタリアではEU懐疑的な傾向が一段と強まる可能性があるだろう。

ギリシャでは、与党の急進左派連合が、緊縮財政に反対する民意に支えられた中道右派の野党に敗れた見込みだ。急進左派連合のチプラス首相は、EU議会選挙での敗北を受けて、解散総選挙を行なう考えを示している。ギリシャが再び財政拡張傾向を強めれば、EUとの関係が悪化するとともに、ギリシャ危機の再燃のような金融市場のかく乱要因ともなりかねない。

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