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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

骨太の方針決定へ:消費増税は予定通り

2019/06/07

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景気対策の上積みを示唆

政府は今月中に「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を閣議決定する予定だが、その原案が明らかとなった。そこでは、10月の消費増税を予定通り実施する方針が堅持された一方、景気情勢が悪化すれば追加の景気対策を講じる可能性が示唆された点が注目される。

10月の消費税増税について原案には、「(税率10%への)引き上げを予定している」と表記され、増税方針が堅持されている。他方で、「海外発の景気下振れリスクが顕在化する場合には、機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行する」、「経済の回復基調を維持させるため、あらゆる政策を総動員し、経済運営に万全を期す」と記されている。

10月の消費税増税実施の予定時期まで既に4か月を切っており、増税実施を先送りすることは、日々難しくなっている。直前での先送り決定は、準備を進める事業者に大きな混乱をもたらすためだ。他方、米中貿易戦争の激化などの外的環境の悪化によって経済情勢が厳しくなる場合には、現在、消費増税対策として決定している2兆円規模の景気対策を、数倍の規模にまで拡大させる可能性があるだろう。

日本が議長国を務めた2016年のG7サミット(先進7か国首脳会議)では、世界経済への配慮、国際的な責務を理由として、政府は消費増税の先送りを決めた。今月下旬のG20サミット(主要7か国・地域首脳会議)では、世界経済を支えるためにインフラ投資の拡大などを呼びかけ、日本での追加景気対策実施を正当化する布石が打たれる可能性もある。

最低賃金引上げには弊害も

また、「骨太の方針」の原案では、最低賃金についての記述も注目される。「力強い上昇を実現していく」と、最低賃金をさらに引き上げていく方針が示されたのである。しかし、具体的な引き上げ幅については言及されておらず、引き続き調整が進められていると見られる。

最低賃金は、過去3年連続で年3%程度引き上げられてきた実績がある。2018年の最低賃金(時給)は、全国平均で874円だ。年3%程度の引き上げペースが今後も維持されるとすれば、向こう5年で1,000円を超える計算だ。政府内では、1,000円を明確な目標に据え、引き上げペースをさらに加速すべき、との意見も出ている。

しかし、中小企業を中心とする日本商工会議所は明確に反対するなど、最低賃金引上げについて、産業界からは慎重な意見も出ている。正規社員の基本給のベアでみれば0.5%~0.6%、定昇込みで2%程度といった賃上げペースは、概ね経済環境に見合った適切なものではないか。このもとで、無理に急速に最低賃金を引上げれば、中小・零細企業を中心に、企業の人件費負担を過度に高め、収益環境を損ねるだろう。また、それは、設備投資の抑制や雇用の抑制などにつながり、経済の安定を損ねてしまう可能性がある。

労働市場改革と社会保障制度改革

労働市場対策では、30代半ば~40代半ばのいわゆる「就職氷河期世代」には、正規の職に就けないことや引きこもりなどの問題が見られる。そこで、同世代の約100万人を集中的に支援し、3年間で正規雇用者を30万人増やすという数値目標が設定された。

社会保障改革については、「年齢などにとらわれない視点」で検討するとし、また、所得の多い高齢者らに一層の負担を求める考えを示唆している。具体的には、年金の受給開始年齢を70歳超に繰り下げることも選択可能とする仕組みを例示している。

他方、働いて一定額の収入がある60歳以上の年金を減額する「在職老齢年金制度」を廃止する方向が検討されている。在職老齢年金は、会社員らが加入する厚生年金の受給者が対象だ。賃金と年金の合計で、60~64歳は月28万円、65歳以上は月47万円をそれぞれ上回ると減額される仕組みとなっている。

しかし、厚生年金は支給開始年齢を段階的に65歳へ引き上げられており、男性は2025年度、女性は2030年度には60~64歳の在職老齢年金制度の対象者はいなくなる。他方、政府は「人生100年時代」を見据え希望者を70歳まで働けるよう高齢者雇用を進める方針を掲げている。「在職老齢年金制度」は高齢者の就労意欲を損ねている面があることから、その廃止が検討されているのである。

一方、「在職老齢年金制度」の廃止は、年金支給の増額をもたらしてしまう。2016年度末で、同制度の対象者は約124万人だ。制度廃止によって、支給額は約1兆1千億円程度増える計算だ。

このように、労働力確保と社会保障制度改革には互いに矛盾する点もある。新たな財源確保も含めて、政府には難しい対応が求められている。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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