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米国の金融政策が市場に支配される

2019/06/17

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景気減速には即座に利下げで対応か

6月18~19日に、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。政策金利引下げなどの政策変更は今回見送られるとの見方が大勢であるが、一方、7月のFOMCで政策金利引下げの実施を見込む向きは少なくない。その見通しに強い根拠がある訳ではなく、政策決定は今後の経済、金融情勢次第だろう。今回のFOMC後にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が再び政策金利引き下げを示唆する発言をし、さらに7月5日に公表される6月分雇用統計が2か月連続で弱めに振れれば、7月にも0.25%の政策金利引下げが実施される可能性は高まろう。

米国経済は、対中追加関税導入、あるいは、足もとでは中東情勢の緊迫を受けた原油価格上昇という、いわゆるサプライショックに晒されている。その結果、物価上昇率は高まる一方、需要も悪化するというスタグフレーション的なリスクが高まっている。これは、景気・雇用と物価安定の双方を使命(マンデート)とする中央銀行にとっては、どちらの使命を優先すべきかで迷う、難しい経済環境だ。しかしながら現在のFRBは、そうしたリスクが高まる証拠が得られれば、迷うことなく政策金利を引き下げるだろう。

それは、FRBがインフレのリスクを重視していないからだ。第1に、FRBが指標とするPCEコア指数の前年比は最新4月分で+1.6%と、物価目標の2%を下回っている。第2に、FRBは予想物価上昇率(期待インフレ率)の下振れを警戒しており、現在進めている政策の枠組見直しでもそれへの対応が議論の中心だ。現景気回復局面でのPCEコア指数の前年比上昇率の平均値は1.6%と、やはり物価目標の2%を下回っていることから、予想物価上昇率も2%を下回っているとFRBは考えている。そこで、一時的には2%を超える物価上昇率も容認することで、予想物価上昇率を目標の2%水準まで引き上げることを目指すべき、との意見がFRB内で支持を集めているとみられる。

保険の意味での利下げ

他方で、トランプ大統領が引き続きFRBの政策を強く批判し、政策金利の引き下げを露骨に要求していることも、FRBの政策決定に影響を与えるはずだ。米国経済にとっての最大のリスクである米中貿易戦争、あるいは中東情勢の緊迫を受けた足もとでの原油価格上昇も、そもそもトランプ政権が引き起こした面がある。しかし、ひとたび米国経済が悪化に転じれば、それはすべてFRBの誤った政策運営の責任とし、2020年の大統領選挙へのダメージを回避する戦略をトランプ政権はとるだろう。そうした政治的リスクを軽減するためにも、景気減速の明確な兆候があれば、保険の意味での政策金利引き下げをFRBは実施する可能性が高いのではないか。

また、景気情勢の悪化を懸念する金融市場に配慮して、パウエル議長は政策金利引き下げの可能性を示唆することで、金融市場の安定、特に株式市場の下支えを意図する、いわば市場へのリップサービスをしている。今回のFOMC後にも同様のことがなされるかもしれない。

こうした姿勢は、金融市場で好感されるものの、金融市場の期待を一方向に強く誘導する戦略には大きなリスクが伴う。市場が政策変更の期待を強く織り込んだもとで、その期待に沿う政策を実施しなければ、株価の調整など金融市場は不安定となり、それが影響して、最終的には金融市場の期待に応えるような政策の実施をFRBは強いられることになってしまう。これは、「金融政策が市場に支配されてしまう」状態だ。この点、パウエル議長には目先の金融市場の動きに目を奪われないよう、自制心を持ってもらいたいところだ。

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