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米企業から対中制裁関税に批判が噴き出す

2019/06/19

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貿易戦争に勝者なし

米国が5月に決めた輸出禁止措置を受け、中国通信機器最大手のファーウェイ(華為技術)は、その影響によって今後2年間の売上高が計画比で約3,000億ドル、日本円で約3兆3千億円も減少するとの見通しを、6月17日に明らかにした。特に打撃が大きいのは主力のスマートフォンで、2019年に海外販売は4割減、国内を含む世界販売は2割減と大きく落ち込むことを見込んでいるという。

また、ファーウェイの減産は、多くの海外部品メーカーにも打撃を与える。ファーウェイの部品調達先は世界に1万社超ある。その中には米国企業1,200社超、日本でもソニーや東芝メモリなど100社超が含まれており、輸出禁止措置を課した当事国の米国を含めて、海外企業にも悪影響が及ぶことは必至だ。

一方、米国では同日の6月17日から、米通商代表部(USTR)で対中制裁関税第4弾について、業界団体や企業の見解を聞く公聴会が始まった。そこでは各業界から、国内販売価格上昇による販売減が雇用環境を悪化させることや、企業収益を悪化させることなど、対中制裁関税第4弾導入に対して強い懸念が寄せられた。

このように、米中間での貿易戦争は、両国ともに大きな経済損失をもたらし、またグローバル・バリューチェーンを通じて第3国にも打撃を与える。まさに、「貿易戦争に勝者なし」という事実を浮き彫りにしていよう。

公聴会では対中追加関税に強い反対の声

トランプ政権が計画している対中制裁関税第4弾では、スマートフォンや玩具、衣料品など3,805品目、約3,000億ドル相当の中国製品に最大25%の関税が上乗せされる。仮にこの措置が発動された場合には、追加制裁関税の対象は計5,500億ドルとなり、中国からの輸入品ほぼすべてに追加関税が適用されることになる。

USTRでの公聴会は、6月25日まで7日間開かれるが、そこでは300を超す関係者が証言をする。さらに、USTRはこれら証言に対する反論を7月2日まで受け付ける。そのため、トランプ大統領が対中制裁関税第4弾を決める場合でも、その実施は7月3日以降となる。

米国消費者への影響に配慮して、対中制裁関税第3弾までは、消費財をできるだけ対象から外す措置がとられてきた。しかし第4弾には、多くの消費財が含まれる。そのため、この措置が発動されれば、米国の年末商戦にも悪影響が及ぶことが懸念されている。

トランプ政権は、中国からの輸入品に追加関税を課す場合、追加関税分を負担するのは中国であり米国企業や消費者ではない、と主張している。中国企業が米国内での販売価格上昇による販売減少を懸念して、輸出価格を引き下げるなどの措置をとる、そうでなければ、中国以外の国からの輸入品に代替されるため、中国企業の米国向け輸出が減少する、という考えがベースにあるのだろう。

中国製品の代替は簡単でない

しかし、こうしたトランプ政権の主張は、実態からはかけ離れている。制裁関税措置に対しては、米商工会議所や全米小売業協会など、多くの団体から反対の声が示された。ウォルマートやターゲット、コストコ・ホールセールなどの米企業は、6月13日にトランプ大統領に対して共同書簡を送ったが、その中で、関税措置によって、米国の4人家族に平均で年2,000ドルの負担増になる、と指摘している。

17日の証言や事前に提出された書類によると、米アパレル・靴協会は「米国で商品価格が上昇して販売減を招き、さらには雇用機会も減らしかねない」とし、制裁関税の発動に強い反対を表明している。

米企業の中には、中国以外の国からの輸入で代替することを検討する動きもある。しかし、中国企業以外に、米企業が要求する製品基準を満たす企業を見出すのは簡単でないケースも多いようだ。チャイルドシート製造業者は、「ベトナムやメキシコも検討したが、基準達成が難しく、中国に代わる国が見当たらない」と訴えている。テレビメーカーも中国以外の調達先を見つけるのは難しいとしている。

また、トランプ政権は国内生産への回帰も呼び掛けているが、靴メーカーは、それには時間と費用がかかるため、「米国に生産を戻すのは現実的ではない」と説明している。それ以外にも、宝飾品の業界団体は、中国企業との契約などを変更することは難しいと説明し、関税によってコストが上昇すれば、雇用が失われる恐れがあると訴えた。また、アパレル企業は、追加関税による負担増を消費者に転嫁できないとしている。ベビー用品メーカーからは、「消費者が安い中古品を買うようになり子供の安全が脅かされる」などといった意見も出されている。

このように、対中制裁関税第4弾については、予想外に強い否定的な意見が米企業から示されている。だからと言って、トランプ政権がその実施を見合わせるとは言えないが、同様に米国自動車企業から強い反対が示された、自動車・自動車部品に対する最大25%の追加関税の導入に対する政府の判断が先送りされてきたことを踏まえれば、米国企業のこうした意見は政策に一定程度反映される可能性は否定できないところだ。

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