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広がり続ける中国の金融不安

2019/06/24

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地方銀行の経営不安で銀行間市場では資金ひっ迫

中国当局が5月下旬に内モンゴル自治区の小規模銀行、包商銀行を公的管理に置いたことをきっかけに、地方銀行の経営不安が広がり、短期金融市場で資金ひっ迫傾向が強まった(2019年6月11日、本コラム「浮上する中国での地方銀行の破綻懸念」参照)。中国当局者は、これは包商銀行の個別問題であり、小規模銀行全体の問題を示唆するものではないと説明しているが、金融市場の不信感はぬぐえていない。包商銀行と同様に2018年の財務諸表をまだ公表していない銀行を中心に、経営不安の観測が強まっているのである。

銀行経営不安を背景にした貸し渋り傾向は、主に中小銀行が利用する比較的規模の小さいNCD(譲渡性預金証書)市場で、まず顕著に見られた。信用度の低い発行体を中心に、NCD利回りが跳ね上がったのである。

こうした事態を受けて、中国人民銀行(中央銀行)は、不安視されている別の小規模銀行、錦州銀行を間接的に支援することを強いられた。具体的には、錦州銀行が発行した直近のNCDについて、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と似た仕組みである「信用リスク軽減ワラント(CRMW)」の発行を認めたのである。そのもとで、錦州銀行がデフォルト(債務不履行)した際には、中国人民銀行(中央銀行)の支援を受ける国有の信用保証会社が支払いを行う(注1)。

錦州銀行は2018年報告を公表しておらず、また担当した監査会社が監査契約を打ち切って以降、市場は同行を強く警戒してきた。

不安は証券会社、ファンドにも拡大

中国人民銀行による大量の資金供給によって、NCDの利回り上昇はようやく歯止めが掛かってきた感がある。ところが利回り上昇傾向は、比較的規模の小さいこのNCD 市場から、はるかに規模の大きい債券レポ市場へと波及してきたのである。7日を越える長期のレポ金利は、足もとで著しく上昇している。

NCD市場から閉め出された小規模銀行が、3カ月あるいは6カ月物NCDの一部について、レポ市場で借り換えようとしている可能性がその背景として考えられる。包商銀行が5月24日に実質国有化されて以降、1カ月物レポ金利は2.9%からほぼ倍近い5.2%にまで跳ね上がった。

経営不安は地方銀行から、規模の小さい証券会社、ファンドにも広がってきている。中国の証券規制当局は16日に開催した会合で、大手の証券会社やファンドに対して、規模の小さい同業者を支援するよう要請したという(注2)。彼らは銀行間市場で大きな資金の借り手であるが、地方銀行の経営不安が広がり、短期金利が上昇したことで、その資金調達に支障が生じているのである。

証券会社やファンドなどノンバンクによる債券レポや銀行間融資を通じた資金調達は、人民銀行が2018年初頭に金融緩和に転じて以降急増した。2019年1-3月期の借入額は、前年同期比50%近く伸びたという。

一方、こうしたノンバンクは、社債の大口投資家でもある。ノンバンクの資金調達に支障が生じると、社債への投資が減り、今度は企業の資金調達に支障が広がることになる。こうした経路を通じて、地方銀行の経営不安は、実体経済にも深刻な打撃を与える可能性が出てきているのだ。

このまま事態が収束に向かわない場合には、中国経済にとっては、米中貿易戦争に並ぶ、場合によってはそれ以上のリスクとなる可能性もあるのではないか。

(注1)"China’s Small Banks Run Into More Trouble", Wall Street Journal, June 13, 2019

(注2)"Warning Lights Are Flashing in China’s Money Market", Wall Street Journal, June 19, 2019

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