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貿易合意は期待薄な米中首脳会談とG20サミットでの為替問題

2019/06/26

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米中首脳会談は協議継続を確認

6月28~29日に大阪で開かれるG20(主要20カ国・地域)サミットに合わせて、29日に米中首脳会談が行われる見通しとなった。この場では、貿易合意に向けた具体的な議論は大きく進展はせず、協議を継続する姿勢をお互いに確認するにとどまるのではないか。

ただし、合意成立を期待する向きは比較的少数派であることから、実際、こうした結果となっても、金融市場では大きな失望は生じないだろう。他方、協議継続の確認は一種の停戦とも解釈され、金融市場では幾分好感されるのではないか。

5月に米中が貿易合意に失敗した際には、この6月の米中首脳会談で中国側からの大幅な譲歩を引き出し、そうならない場合には、対中制裁関税第4弾を発動する構えを、トランプ政権は見せていた。対中制裁関税第4弾とは、スマートフォンや玩具、衣料品など3,805品目、約3,000億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を上乗せするものだ。最短では、トランプ政権は7月3日に対中制裁関税第4弾を発動する可能性はある。しかし、その可能性はかなり低下しただろう。

中国交渉団を率いる劉鶴副首相が、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表、ムニューシン米財務長官と24日に貿易問題を巡って電話協議したと、米中双方の政府が発表した。米国政府側の電話協議の求めに劉氏が応じたという。5月10日にワシントンで閣僚級協議が開かれて以来、閣僚間での協議がなされていなかったことを踏まえると、米中首脳会談を前にして、既に協議の継続は実現されたことになる。

ブルームバーグ社の報道によれば、米中共に相手国から大幅な譲歩を引き出したいと引き続き考えているものの、制裁関税の応酬はやめ、協議を再開することを望む点で意見が一致したという。

対中制裁関税第4弾の実施を当面先送りへ

トランプ政権は、対中制裁関税第4弾の発動を当面先送りする姿勢に転じたとされる。その背景には、制裁関税発動の脅しを掛けられた形では米中首脳会談に応じたくない、という中国政府側の意向をトランプ政権が受け入れたため、とされている。それに加えて、対中制裁関税第4弾については、6月25日まで開かれたUSTRでの公聴会で、関係業界から予想外に強い反対意見が出されたことや、企業の景況感悪化や株価の不安定な動きをもたらしていること等に、トランプ政権が一定の配慮を見せたこともあるのではないか。

トランプ政権は、既に打ち出した対中制裁関税第3弾やファーウェイに対する規制措置が、中国経済に相応の打撃を与えており、それが中国政府の姿勢を軟化させることを期待している。現状では、追加措置を実施するのではなく、既存の措置の効果を見極める、様子見姿勢を続けることで満足していると言われている。

さらに、米中首脳会談で貿易合意に向けた具体的な議論が期待できない背景には、時間的な制約もあるだろう。会談では、貿易問題以外にも、北朝鮮の核問題、香港のデモ問題などが話し合われる予定だ。

また、トランプ大統領は6月27日から29日まで日本に滞在するが、その間に、安倍首相、ロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相、インドのモディ首相、オーストラリアのモリソン首相、トルコのエルドアン大統領、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子など、少なくとも8か国の首脳と個別会談する予定だ。米中首脳会談に割くことができる時間は、自ずと限られるのではないか。

トランプ大統領はドル高に強い不満

他方、G20サミットで、トランプ大統領はドル安の問題を取り上げる可能性があるとブルームバーグ社は報じている。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利引き下げ期待などを背景に、ドルは足もとで3か月ぶりの安値となっている。

しかし、トランプ大統領は引き続きドルは高過ぎ、それが米国の貿易赤字拡大をもたらしていると認識している。この観点から、トランプ大統領はFRBに早期の政策金利引下げを促す一方で、異例のことであるが、政策金利引下げの可能性を示唆した欧州中央銀行(ECB)の政策姿勢を強く批判しているのである。

トランプ政権は為替の問題と貿易の問題を一体に捉えており、先月には、通貨安政策をとっていると判断された国からの輸入品に、追加の制裁関税を課すことを提案している。ドル高傾向に強い不満を持つトランプ大統領が、G20サミットでこの問題を大きく取り上げる場合には、欧州や日本で、先行きの追加緩和措置が制約を受けるとの観測が市場に広まり、円高・ドル安が進行するきっかけになる可能性がある。また、今後の日本銀行の金融政策にも影響する可能性があるだろう。米中首脳会談よりもこの点こそが、週末のワイルドカードとなるかもしれない。

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