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世界で急増する輸入規制措置

2019/06/28

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貿易制限措置の件数は過去平均の3.5倍

世界貿易機関(WTO)の最新レポートによると、主要国による貿易制限措置が急増している。その主な原因は、米国の保護貿易主義、米中貿易戦争だ。WTOが6月24日に公表したのは、2018年10月~2019年5月の間にG20(主要20か国・地域)が新たに実施した、追加関税や輸入規制などの輸入制限措置の集計だ。その総額は3,359億ドルと、日本円で約36兆円にも及んだ。前回2018年5月~10月の4,809億ドルは下回ったものの、それに次ぐ過去2番目の高水準だ。

また、この間、貿易制限措置がとられた件数は20件だった。これは、2012年にこの調査が始まってからの平均水準の約3.5倍に達している。

WTOのアゼベド事務局長は、「安定的なトレンドが金融危機以降10年近く見られたが、貿易制限措置の規模が過去1年間に急拡大した。このことは不透明感の高まりや投資減少、弱い貿易の伸びといった影響をもたらす」とし、貿易摩擦の緩和に向けてG20の指導力発揮が急がれると述べた。

WTOはさらに著しい貿易制限が先行き検討されており、世界経済環境の諸問題の悪化や不透明感拡大につながっているとも分析している。

WTO改革の複雑な構図

ところで、輸入規制措置については、米国の追加関税措置等に加えて、日本が大いに関心を持っているのが、韓国による福島、茨城など8県産水産物の輸入禁止措置だ。これについては、WTOの最終審に当たる上級委員会が正当性を明示しないままに、韓国の措置を容認した。これを踏まえて、日本は改めてWTO改革の必要性を訴えている。先般開催されたG20貿易・デジタル経済大臣会合でも、紛争解決制度の機能改善について「行動が必要」との文言が声明文に盛り込まれた。

WTOのアゼベド事務局長は、WTO改革の主要テーマである紛争解決機能の改善について、日本経済新聞社のインタビューで「加盟国は懸命に努力して(事態打開に向けた)多くの提案が出ているが、話し合いが前進しているとは言えない」と自ら危機感を表明している。

日本がWTO改革を強く提案している背景には、韓国との問題に加えて、WTO離脱の可能性を示唆しているトランプ政権をWTOに留め、いずれは、WTOが理念とする多角的貿易主義に引き戻す狙いがある。

しかし、WTOに不満を持つトランプ政権は、紛争処理パネルで最終判断を下す二審の上級委員会で、新たな委員任命を阻止している。このため七人体制の委員会は三人で運営されているのが現状だ。これが紛争処理を遅らせ、WTOの機能を低下させている。

日本は、WTOの機能を低下させている張本人である米国のために、WTOの機能回復を目指す、という実に複雑な構図となっているのである。

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