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消費増税前の駆け込み購入はなぜ鈍いのか

2019/07/03

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目立たない自動車の駆け込み購入

7月1日に内閣府が公表した6月分消費動向調査で、消費者心理を反映する消費者態度指数(季節調整値)は9か月連続での低下となった。前回2014年4月の消費増税実施の直前にもこの指数は同様の動きを示しており、水準も当時に近いものだ。前回は消費増税の実施と同時に指数は底を打って持ち直したが、今回も同様の動きとなる可能性が見込まれる。

他方、この消費者態度指数を構成する指標の中で、「耐久消費財の買い時判断」に注目したい。前回2014年4月の消費増税実施時には、前年2013年の年初からこの指標は顕著に上昇し、2013年末に急速に下落した。この間、消費者は消費増税前の駆け込み購入の意欲を高めたと考えられる。

今回は、この指標は上昇することなく、今年年初から下落を続けている点が、前回の消費増税前の動きとは大きく異なっている。これは、自動車、家電製品など耐久消費財の駆け込み購入の動きが弱い、という多くの指摘とも整合的だ。

経済産業省が発表している商業動態統計の小売業販売額によると、自動車については2014年4月の消費増税引き上げの2四半期前、家電製品などの機械器具については1四半期前に、販売額(名目値)の前年同期比は急速に高まった。前者は+14.3%、後者は+19.5%だ。

ところが、現状では、消費増税実施の2四半期前、つまり2019年4-6月期(実際は4-5月の数値から計算)の前年同期比は、自動車が+0.0%、家電製品などの機械器具は+3.9%にとどまっている。機械器具については、2014年4月の消費増税引き上げの2四半期前の販売は前年同期比+4.3%だったことから、今回もそれと大きな違いはないが、自動車については大きな差が生じている。

今回は駆け込み購入、反動減とも小さめか

前回の消費増税前と比較して、今回は駆け込み購入の動きが弱い理由としてしばしば指摘されているのは、消費の基調の弱さを反映している、というものだ。しかし、消費増税前の駆け込み購入の有無は、将来にわたって商品購入の総額を変化させるようなものではなく、商品購入のタイミングを調整するか否かを意味している。この点から、この指摘は当たらないのではないかと思う。

それ以外の理由として考えられるのは、第1は、今回の消費税率の引上げ幅は3%ではなく2%と小さいことだ。第2は、耐久消費財の駆け込み購入が、前回の消費増税前にかなり出てしまったことだ。2014年の消費増税時には、2015年にさらに2%の増税実施が予定されていた。そのため、消費者は、合計で5%分の増税実施を見越して、かなり先の分までの耐久消費財の購入を前倒しした面があると見られる。第3は、自動車を中心に、消費増税対策の一環で減税措置が実施されることだ。2019年10月1日以降に新車登録をした乗用車は、税率が下がる。そのため、消費増税前に自動車を購入するという消費者の意欲が削がれている部分がある。第4は、政府が消費増税実施を過去2回と同様に先送りする、との観測が根強く残ったことだ。

このような要因が、駆け込み購入を押さえてきたのだろう。このうち、第4の要因はほぼ無くなったことから、その分、駆け込み購入の動きがこの先出てくることが予想されるが、それでも第1~第3の要因によってそれは抑制され続けるのではないか。

その結果、駆け込み購入の反動も、前回消費増税後よりも小さくなるはずだ。さらに、消費増税のより持続的な影響について考えると、増税に伴う家計の実質所得減少とちょうど同額の2兆円超分、政府は消費税対策を実施する。これは、増税の財政健全化効果を削いでしまうという問題があるが、その結果、消費増税の経済への悪影響は相殺されやすい。

こうした点を踏まえると、消費増税が経済に与える影響は、駆け込みとその反動という一時的な要因、実質所得悪化による持続的な要因ともに大きくないと考えられる。少なくとも、消費増税の直接的な影響のみで、国内景気が悪化傾向に陥る可能性は小さいのではないか。あくまでも、国内経済の方向性を決めるのは、海外要因である。

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