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FRBの利下げは予防的措置か保険的意味か

2019/07/11

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政策金利の引下げは既定路線

米連邦公開市場委員会(FRB)のパウエル議長は10日、下院金融サービス委員会で証言を行った。その発言内容は、7月の米公開市場委員会(FOMC)での政策金利引下げを明確に示唆するものと言えるだろう。実際、7月31日に0.25%ポイントの政策金利引下げが決定される可能性は高いと見られる。

今回の証言で、市場が事前に最も注目していたのは、6月分雇用統計が強めに振れたことが金融政策姿勢に与える影響であったが、米中貿易戦争などの景気下振れリスクがある中、6月分の強めの雇用統計を受けても、FRBの経済見通しを根本的に変えていないと、議長は発言している。また、議長は質疑応答の中で「これから月末にかけて重要な経済指標が出てくる」とし、7月のFOMCでの決定まで、なお経済指標を見極める考えを示している。しかし、多少強めの経済指標が公表されるとしても、強めに振れた6月分の雇用統計でも変わらないと説明しているFRBの経済見通し及び政策姿勢が、大きく影響を受ける可能性は低いだろう。

また、10日には前回のFOMC議事録が公表されたが、その中では、多くの出席者が「最近の動向が経済の重しとなり続けるのであれば、近く金融緩和が正当化されることになる」との認識を示したことが明らかにされた。これは、政策金利引下げが既に既定路線になっていることを意味していよう。

高まる組織防衛の意識

他方、米国経済がなお安定を維持している中での政策金利引下げについては、拙速な措置として一部には批判もある。これに対してパウエル議長は、政策金利引き下げは、予防的措置であり、それは経済の安定維持の観点から重要、との意見を述べている。

FOMCの多数意見は、今年中に政策金利が0.5%ポイント引き下げられ、来年は据え置かれる、との見通しとなっている。本格的な金融緩和ではなく、小幅な金融緩和にとどまるとの見通しだ。これらは、FOMCの中で予防的金融緩和の実施がコンセンサスになっていることを意味する。

仮に、FRBが小幅な金融緩和を実施した後に、米国経済が力を増していく場合でも、それは政策判断ミスではなく、小幅な金融緩和の実施によって米国経済の減速が避けられ、安定が維持されたと自画自賛の説明をすることができる。

しかし、FOMCの中でコンセンサスとなっている小幅金融緩和は、予防的措置よりも、保険的意味合いの措置との要素の方が強いのではないか。トランプ大統領は、FRBに金融緩和を露骨に迫る、いわゆる政治介入を繰り返している。FRBは、政策決定に政治の影響は受けないという姿勢を維持しているが、仮にこの先、米国経済が悪化した場合には、2020年の大統領選挙への悪影響を和らげるため、過去のFRBの金融引き締め策の実施、及び金融緩和が遅れたことがその主因だとトランプ大統領は主張することは目に見えている。この場合、FRBは国民からの信認を大きく失ってしまう可能性があるだろう。

こうしたリスクを軽減する観点から、つまり、組織防衛の観点から、FRBは小幅な政策金利引下げという、いわば証拠づくりに動きつつあるという側面があることは否定できない。これは、政治的なリスクを和らげるための、いわば保険的意味合いの強い措置だ。

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