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難局を迎えるラガルド新総裁下でのECB政策対応

2019/07/23

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金融緩和策は新体制に継承される

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は6月に、経済見通しが改善しなければ、景気刺激策を追加すると表明した。これはかなり明確な追加緩和実施のシグナルであり、実際、比較的近い将来にECBが追加緩和策の実施に踏み切る可能性は高そうだ。

そうした中、今週7月25日にECB理事会が開かれる。そこで追加緩和策が実施されるとの見通しは少数であり、9月の理事会での追加緩和実施を強く示唆する文言が声明文に加えられるにとどまる、との見方が多い。他方、夏休み休暇後の9月の理事会で、政策金利(中銀預金金利)を0.1%引き下げ、-0.5%とする緩和措置が実施されるとの見方が多数意見だ。さらに、年明け後には資産買入れが再開されるとの見方が、金融市場で有力となっている。

欧州連合(EU)は7月9日の財務相理事会で、ECBの次期総裁にラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事を充てる人事を承認した。10月のEU首脳会議で正式に決まり、11月に就任する予定である。ラガルド氏は、金融政策運営の手腕については未知数ながらも、政治的な調整能力の高さが期待されている。他の中央銀行総裁とは異なり、ECB総裁にはこうした政治能力が特に求められるだろう。

他方、ECBの金融政策運営では、ラガルド新総裁を補佐する形で、チーフ・エコノミストであるフィリップ・レーン専務理事の影響力が高まることが予想される。同氏は7月9日に、「インフレ率をECBの目標に向けた軌道に維持するために、必要に応じて行動を起こす用意がある」と発言している。9月に道筋を付けるドラギ総裁の緩和政策が、この両者によって継承されていく可能性が高い。

ラガルド新総裁には「日本化」回避の政策が期待

他方、ラガルド新総裁に期待されるのは、より中長期的な観点から、ユーロ圏経済の「日本化」を回避することだろう。この点から、今後ECB内で議論が活発になることが予想されるのが、「2%に近いがこれを下回る水準」とされるECBの物価目標の下で、実績が目標を長く下回り続けており、その結果、予想物価上昇率(インフレ期待)が下振れていることだろう。予想物価上昇率の下振れは、金融緩和効果を損ねることで、経済や物価の低迷、あるいはデフレ局面入り、ゼロ及びマイナス金利の長期化などを招くことが懸念される。これこそが「日本化」である。

そこで、「日本化」を回避する観点から、当面は、ECBは金融緩和策を実施する一方、予想物価上昇率を押し上げる方策を検討するだろう。これは、現在、米連邦準備制度理事会(FRB)が検討を進めている政策枠組みの見通しに近いものだ。その際に、検討対象の中核となるのは、FRBと同様に物価目標政策の修正となるのではないか。実際、ECBのスタッフが物価目標見直しにつながる作業に着手したとの報道もある。

「2%に近いがこれを下回る水準」を目指すというECBの物価目標政策のもとでは、実質的には物価上昇率の2%を上限とする政策運営となりやすくなることが警戒されている。物価上昇率が2%を上回ることは許容されない一方、2%を下回る局面ではそれが容認されやすいという、物価目標が上下に非対称であるという問題がECB内で議論されているのではないか。物価目標が上下に非対称であることが、予想物価上昇率を目標値から下振れさせているとの考えである。

それへの対応としては、物価目標が2%を中心として上下対称であることを明示する、物価目標政策の見直し策が採用されるのではないか。ラガルド新総裁には、ユーロ圏加盟国の物価上昇率の水準がそれぞれ異なる中で、各国間の利害を調整しながら、物価目標政策の見直しをまとめ上げる、という大役が期待される。

金融政策、プルーデンス政策ともに試される手腕

他方、金融政策面のみならず、プルーデンス政策でも大きな課題がある。それは、経営不振に陥っているドイツ銀行問題への対応だ。ECBには、ドイツ銀行の問題がシステミックリスクを生じさせないよう、監督当局としての対応が期待されるところだ。また、ドイツ銀行が現在打ち出しているリストラ策を実施した後に、欧州の他の大手銀行との統合が模索される可能性があり、その場合には、ECBの調整力が求められるだろう。一方で、欧州経済が悪化すれば、イタリアなどユーロ圏の他の国でも銀行問題が再び高まる可能性がある。

2011年11月に総裁に就任したドラギ氏が、その直後に欧州債務問題を受けた金融市場の混乱への危機対応を求められたように、ラガルド氏も金融政策、プルーデンス政策の両面から舵取りが難しいタイミングで就任することになるのだろう。

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