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米中貿易協議再開も合意はなお遠い

2019/07/30

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トランプ政権が検討するドル安誘導策の危険性

米中貿易協議が7月30日~31日に中国・上海で開かれる。これは、米連邦公開市場委員会(FOMC)の開催日と重なるが、トランプ政権内で、通商政策と金融政策、そして為替政策とが一体となっていることを象徴しているようでもある(当コラム「米国では金融・為替・通商政策が三位一体」、2019年07月29日参照)。米中貿易協議の結果及びFOMCの結果を受け、トランプ大統領はドル安を通じて貿易赤字削減を目指す姿勢を強化する可能性がある。

クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は7月26日に、「トランプ大統領と経済顧問らは、ドル押し下げに向けた外国為替市場への介入案について協議したが、最終的には見送る決定を下した」と説明した。しかしその後、トランプ大統領は、ドルについて「行動を起こさないとは言っていなかった」と記者団に語り、ドル安誘導を意図した為替介入の可能性を示唆している。

トランプ政権による財政拡張策の影響などから、米国では財政赤字と貿易赤字が同時に拡大する「双子の赤字」問題が深刻化している。そのもとでは、ドルや米財務省証券などドル建て金融資産に対する海外からの信頼感が揺らぐリスクがある。こうした中、他国と協調することなく、単独でトランプ政権が為替介入を通じたドル安誘導策を採用すれば、ドルの大幅安や、米国債券・株式価格の大幅下落などを生じさせ、世界の金融市場が大きく混乱し、とりかえしがつかなくなるリスクがある。トランプ政権は、こうしたリスクに十分配慮しなければならない。

米中協議再開も隔たりは大きい

7月30日~31日に中国・上海で開かれる米中貿易協議には、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とムニューシン米財務長官が訪中し、劉鶴(りゅうかく)副首相、鍾山(ジョンシャン)商務相らと交渉する。米中貿易協議は5月10日の合意失敗以降途絶えていたが、6月末の米中首脳会談で貿易戦争の一時休戦が合意された後、米中は閣僚級による電話協議を2回行い、今回、対面での貿易協議再開に至ったのである。

中国商務省は24日に、「一部の中国企業が米農産品を継続輸入する契約を進めている」と表明した。また、中国国営新華社は28日に、米国産の大豆数百万トンが船便で中国へ向かっていると報じた。中国政府は、20日に金融市場の新たな開放策も打ち出した。他方、米国政府も中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に対する制裁緩和手続きに着手する姿勢を示しており、協議再開を前に双方が歩み寄りを見せている。

他方、トランプ政権による対中強硬姿勢も見られる。トランプ米大統領は26日に、中国などが世界貿易機関(WTO)のルールで「途上国」として優遇されているのは不公平だとして、WTOに見直しを働きかけるようUSTRに指示した。90日以内に進展がないと判断した場合は、一方的に優遇をやめるという。

ムニューシン財務長官は、再開される米中貿易協議について、「依然として多くの課題があるが、今回の協議に続いてワシントンでも会合を開き、できれば話し合いを継続したい」と語り、対話継続の姿勢を示している。とはいえ、両者の隔たりはなお大きい。トランプ政権は、米農産品の輸入拡大などを通じた米中貿易不均衡の是正や、知的財産権保護、国有企業問題、補助金問題などの構造改革を中国に迫る方針である。他方、中国は、米国が中国からの輸入品に課した制裁関税の即時撤廃を要求している。また、トランプ政権が示したファーウェイへの禁輸緩和について、具体的な進展を米国側に強く求めるとみられる。両者の溝は簡単には埋まらず、一時停戦も長期化しそうな情勢だ。

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