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米トランプ政権が対中追加関税第4弾を発表

2019/08/02

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米中貿易協議の加速を狙った措置

米トランプ大統領は8月1日に、中国からの輸入品3,000億ドル相当に10%の関税を課す対中追加関税第4弾を、9月1日から発動する考えを突如打ち出した。この措置が実施されれば、中国からの輸入品のほとんどが追加関税の対象となる。一時停戦の下、米中の貿易協議が本格的に再開された直後のタイミングでのこの発表は、まさに寝耳に水であった。

トランプ大統領が中国との貿易協議が続く中で、一方的に追加関税を発動するのは、これで3回目であり、中国側の不信感を一層強めるものとなるだろう。さらにトランプ大統領は、中国側が譲歩しなければ、追加関税率を10%からさらに引き上げる、としている。体面を重んじる中国政府は、一方で脅されながら交渉に臨むことを非常に嫌う傾向がある。今回の措置により、米中貿易協議の見通しはより厳しくなったと言えるだろう。

トランプ大統領がこのタイミングで対中追加関税を打ち出したきっかけには、2つの重要イベントがあったと考えられる。第1は、7月30、31日に上海で再開された米中閣僚級貿易協議だ。協議の内容は明らかになっていないが、大きな進展はなく終わったとみられる。

トランプ大統領は、中国政府が約束をした米国農産物の輸入拡大が実行されてない、との不満を述べている。ただし、中国政府によって、補助金問題や知的所有権問題と比べれば、米国農産物の輸入拡大は受け入れやすいものであり、この点で米中が大きく対立していることは理解しがたい面がある。ただし、2020年の米大統領選挙を睨んで、農産物の輸出拡大は農家の支持を集める観点から、トランプ政権にとっては重要であり、現時点で大きな関心事となっていることは確かだろう。これは、日米貿易協議についても同様である。

またトランプ大統領は、2020年の大統領選挙で同氏が敗れることを期待して、中国政府は米中貿易協議での合意を大統領選挙後まで引き延ばす戦略をとっていると、中国政府を強く非難している。協議を加速させるために、この対中追加関税で中国側に圧力をかける狙いである。しかし、この措置は、中国政府の反発を強めることで、むしろ協議の進展を遅らせてしまう可能性があるだろう。

ドル安を代替する追加関税措置

第2のイベントは、同じく7月30、31日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)である。米連邦準備制度理事会(FRB)は、0.25%の小幅な利下げ(政策金利引下げ)を決定したが、トランプ大統領は利下げ姿勢が十分ではないと批判している。トランプ大統領がFRBに対して執拗に大幅な利下げを要求してきたのは、景気への好影響を期待するだけでなく、ドル安の効果を期待しているためである。それは、貿易相手国との企業の競争条件を改善させ、米国の貿易赤字縮小に貢献すると考えているのである。

利下げが小幅であったことと、FOMC後にドル安が進まなかったばかりか幾分ドル高に振れたことを、トランプ大統領は非常に不満に思ったことだろう。そこで、金融緩和を使ったドル安誘導が上手くいかないのであれば、追加関税を導入することで、中国との競争条件を改善させること狙ったという面があるのではないか。

トランプ大統領は、為替と関税はお互い代替的なものとの意識が強いのである。以上の点は、トランプ政権にとって、通商政策、金融政策、為替政策はそれぞれ互いに強く結びついており、いわゆる「三位一体」の関係にある。

対中追加関税第4弾が予定通りに発動されれば、米国のGDPには10分の数%程度の押し下げ効果が生じよう。当面は、長期金利の低下が住宅投資、自動車購入を刺激すること等から、この措置によって米国経済が一気に失速する可能性は大きくないと見られる。

しかし、追加的な景気下振れ要因となることは疑いがない。11月のFOMCで0.25%の追加利下げが実施される可能性が高いと考えるが、今回の措置によって、それが9月に前倒しされる可能性も幾分高まった感がある。

金融市場では、日米欧の主要中央銀行による金融政策決定の会合が、大きな混乱なく通過してほっとしていたところ、対中追加関税導入という伏兵の登場によって予想外にドル安、株安が生じた。まさに寝耳に水である。そして、FOMC後も円高・ドル安が進まずに一息ついていた日本銀行にとっても、対中追加関税導入を受けた円高・ドル安の流れは懸念されるところだろう。

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