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混迷するリブラ規制の準拠法を巡る各国議論

2019/08/06

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フェイスブックが主導する新デジタル通貨リブラについて、世界の金融当局による規制の議論が進められている。

7月中旬に米上下院で開かれたリブラに関する公聴会では、証言したフェイスブック幹部のデビッド・マーカス氏は、リブラの運営を担うリブラ協会の拠点を米国ではなくスイスに置いたことについて、米国当局からの規制逃れが目的ではないと説明した。そのうえで、スイスを選んだ理由の一つとして、「規制の明確さ」を挙げている。この発言は、米国における仮想通貨(暗号資産)などを巡る規制環境の不備を明らかにするものとして注目を集めた。リブラの規制を考える上では、これは大きな障害である。

仮想通貨(暗号資産)について、米証券取引委員会(SEC)は有価証券に該当するケースがあるとの見解を示す一方、米商品先物取引委員会(CFTC)は商品(コモディティ)と見なしている。また、米内国歳入庁は、仮想通貨(暗号資産)は資産にあたるとの見解を示しており、規制当局によって解釈が分かれているのが現状である(注1)。

報道によるとSECは、リブラが有価証券に該当するのかどうかを、現在精査しているという。CFTC元委員長のゲイリー・ゲンスラー氏はその可能性について言及したうえで、下院金融サービス委員会に対して、複数の通貨で裏付けられるリブラは「上場投信」に似ていると主張している。一方、米国の金融安定監督評議会は、リブラを銀行として規制できるかを検討しているという。フェイスブック幹部のデビッド・マーカス氏は、リブラは決済ツールであり、リブラ協会は銀行として機能していないことを主張した。

日本では金融庁が、リブラは仮想通貨(暗号資産)ではない、との見方をしているとの報道が複数なされている。法定通貨のバスケットで価値が決まるリブラは、法定通貨建て資産に準じるとの考えだ。

他方、リブラを、通貨でも仮想通貨(暗号資産)でもなく、資金決済法で定められている電子マネーのような「前払式支払手段」やスマートフォン決済などの「資金移動業」と定義して、規制することも選択肢として考えられる。しかし前払式支払手段では、電子マネーを原則では換金できないという制限があり、また、資金移動業の場合には、送金や決済に使える金額の上限が現状では100万円という制限があるなど、リブラの利便性をかなり制限してしまう(注2)。

リブラの規制に関しては、まず、リブラを既存の金融法体系の中でどのように位置づけられるのか、という議論が起点となろう。しかしそれについてさえ、一つの国の中でも、規制当局間で見解の相違があるのが現状だ。

こうした点を踏まえると、世界の金融規制当局が、リブラの規制に関して意見を集約するまでには、なおかなりの時間がかかりそうだ。さらに、リブラ、リブラ協会が、各国ごとの規制に基づき免許、認可の取得を進めることにも、膨大な時間と作業を要することになるだろう。リブラ発行までの道のりは、まだ険しそうだ。

(注1)「米、暗号資産規制の出遅れ鮮明 「リブラ」きっかけに-技術の国外流出への危機感も」、2019年7月31日、日本経済新聞電子版
(注2)「リブラ規制 悩む金融庁 既存の法制で対応困難 従来の仮想通貨と異質」、2019年7月29日、産経新聞

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