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中国人民元は実は最強通貨か

2019/08/09

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人民元の基準値は1ドル=7元台の設定が続く

8月9日に中国人民銀行が設定した人民元の基準値は、1ドル=7.0136ドルと、基準値としては7営業日連続の人民元安水準となり、また2日連続で7元台での設定となった。金融市場では、トランプ政権が8月1日に打ち出した対中追加関税第4弾、あるいは8月5日の中国の為替操作国認定を受けて、中国政府が報復措置として人民元安誘導を実施しているとの観測が生じていた。また、それは、米中の対立をより激化するものとして金融市場は警戒を強めていた。しかし、足もとではそうした懸念はやや和らいでいる。市場で取引される人民元も、大幅安傾向に一服感が見られる。

人民元の基準値は、中国人民銀行(中央銀行)が通貨バスケットの変動を反映して決める、と説明されているが、人民元安方向への基準値の低下も概ね市場実勢を反映したものとの認識が市場に広がっているのだろう。

中国人民銀行は基準値を再び1ドル=6元台に設定し、人民元を押し上げる姿勢を強く示すことも可能であろうが、そうした行動は、今まで中国が人民元安を誘導してきたとの理解(中国の立場では誤解)につながるため、実施できないということなのではないか。

中国人民銀行は為替操作国認定に強く反発

8月5日にトランプ政権が中国を為替操作国に認定したことを受けて、6日に中国人民銀行が発表した声明は、非常に強い口調でトランプ政権のこの決定の不当性を訴えるものとなった。以下はその骨子である。

  • 米国財務省は中国を「為替操作国」に認定したが、中国は米財務省が自ら定めたいわゆる「為替操作国」の数値基準を満たしていない。
  • 中国が採用しているのは、バスケット通貨を参考にして調整を行う管理された変動為替レート制度であり、人民元為替レートは市場の需給によって決まる。そのため、「為替操作」は存在しない。
  • 国際決済銀行(BIS)のデータによると、2005年初めから2019年6月までの間に、人民元の名目実効為替レートは38%、実質実効為替レートは47%それぞれ値上がりした。人民元はG20(主要20か国・地域)の中で最も強い通貨である。
  • 国際通貨基金(IMF)は先ごろ終了した中国に対する第4条協議の中で、人民元為替レートはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)にほぼ合致していると指摘した。

中国人民銀行が指摘しているように、米財務省が、自ら定めたいわゆる「為替操作国」の3つの基準のうち、中国が1つの基準しか満たしていない中で、突然、「為替操作国」に認定した理由を明確に説明していないことは問題だ。また、中国に対する第4条協議の中で、人民元がファンダメンタルズに沿っていると判断したIMFが、米国政府と協力して為替操作に関して中国と協議を行うというのもおかしな話だ。

中国だけ利下げが制約される状況にも

トランプ政権は1ドル=7元超の人民元安を人民元安誘導の一つの証拠と考えていたようだが、それは根拠のないことだ。例えば中国の最新7月の消費者物価は前年同月比+2.8%と、米国の消費者物価上昇率よりも1%以上高い。購買力平価の考え方に基づくと、インフレ格差を反映して、名目値では対ドルで人民元安が進むのは自然なことであり、またそれがインフレ格差分にとどまるのであれば、米国製品に対して中国製品の国際競争力が高まることにはならない。

また、中国の外貨準備は、2014年をピークに緩やかな減少傾向を辿っているが、これは、中国がドル売り人民元買いの介入を通じて、人民元安を食い止める操作をしてきたことの反映である。為替操作といっても、米国が考えるものと逆方向である。

このように、中国にとってはトランプ政権による為替操作国の認定は不当なものであるが、一方で、この措置によって、中国の金融政策が制限されるという問題も生じる可能性がある。7日にはインド、ニュージーランド、タイで中央銀行がそれぞれ利下げを実施している。中国でも中国人民銀行が利下げを実施するとの観測が生じている。しかし、利下げを実施すれば、人民元安がさらに進む可能性がある。また、利下げが人民元安誘導のための為替操作とトランプ政権からの批判を浴び、両国間の関係が一層悪化する可能性があるだろう。

こうした点に配慮すれば、中国では利下げの実施が強い制約を受けるのではないか。他の新興国では、米国の利下げを反映した自国通貨高の回避と景気刺激のために、利下げ策の実施が相次いでいるが、中国でそれが制約を受けることになれば、中国経済の先行きへの悲観論が高まりやすくなる。

そして、それ自体が人民元安を招き、さらに利下げの実施を難しくする、という悪循環に陥ってしまう可能性があるだろう。

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