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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

日銀利下げと金融機関収益への配慮

2019/08/13

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利下げ時に金融機関の収益への影響を軽減する措置の検討

足もとで、円高が急速に進展している。これは日本銀行にとって大きな懸念材料であるが、少なくとも1ドル100円割れが視野に入るまでは、日本銀行は追加緩和策を温存するだろう。それまでは、フォワードガイダンス(金融政策方針)の時間軸を延長すること等、一種の口先介入で時間稼ぎを図るだろう。しかし、円高進行を一つにきっかけに、日本銀行が最終的に政策金利(短期金利)の引き下げ実施を余儀なくされる可能性はある。その際には、金融機関の収益への悪影響という副作用が障害となり得る。

欧州中央銀行(ECB)は、9月の政策理事会で中銀預金金利の引下げを実施する可能性が高い。その際、金融機関の収益悪化を軽減する措置を合わせて実施する考えをドラギ総裁は示している。ECB内では、スイスや日本が既に導入している階層型当座預金制度が検討されていよう。その場合、所要準備を上回る超過準備については、マイナス金利部分と、ゼロあるいはプラス金利部分との2層構造となるのではないか。ただし、政策理事会内では、金融機関の収益悪化を軽減する措置については、意見は分かれた状況にあるようだ。

日本銀行が追加緩和措置の実施を強いられる場合には、政策金利の-0.1%から-0.2%への引き下げが有力と考えられる。その場合、ECBと同様に、金融機関の収益悪化を軽減する措置を合わせて実施することも選択肢となるだろう。

具体的にはどのような方策が考えられるのだろうか。その前に、日本銀行の3層建ての階層型当座預金制度を確認しておこう。第1は、+0.1%の金利が適用される「基礎残高」だ。量的・質的金融緩和のもとで各金融機関が積み上げた既往の残高で、具体的には、各銀行が積み上げた当座預金残高のうち、2015年1月~12月の期間における平均残高であり、2019年6月で約208.5兆円である(補完当座預金制度適用先合計)。第2が「マクロ加算残高」であり、ゼロ%の金利が適用される。ここには、約9兆円の所要準備額と貸出支援基金および被災地金融機関支援オペが含まれる。2019年6月で約155.6兆円である。第3が、「政策金利残高」であり、-0.1%の金利が適用される。2019年6月で約23.0兆円である。このうち、制度、政策を変更しない限り、「マクロ加算残高」が増加を続けていく設計となっている。

日本銀行の階層型当座預金制度の見直しは可能か

日本銀行が、政策金利を-0.1%から-0.2%に引き下げれば、6月の残高を前提にすれば、金融機関の利払い負担は230.4億円から460.8億円へと230.4億円分増加する。

第1の選択肢は、約9兆円の所要準備に適用される金利を0%から引き上げることだ。仮に+0.1%の金利とすれば90億円、+0.2%の金利とすれば180億円となる。しかし、法的には可能であるとしても、所要準備にプラスの金利を付すことは難しいのではないか。そもそも所要準備は、銀行に預金の一部を中央銀行に預託することで、預金の取り崩しにも対応でき、銀行経営を安定させることを目的とした規制策である。これに対して、中央銀行が金利を付して銀行に利益を与えることは、制度の主旨に照らしておかしいのではないか。

第2の選択肢は、「基礎残高」の金利を引上げることだ。しかし、仮に+0.1%引き上げて+0.2%とする場合、金融機関が受取る利子所得は、現状の2,085億円から4,170億円になり、2,085億円分増加する。これは、政策金利を-0.1%から-0.2%に引き下げることで直接的に生じる金融機関の利払い負担の9倍にも達する。

その分、日本銀行の利払い負担が増加し、収益が圧迫されることになる。「基礎残高」の金利の引き上げ幅を10分の1の0.01%とし、金利水準を0.11%とすれば、金融機関の収益に与える影響は概ね中立化できるが、小数点第2位という金利水準は、制度の複雑さを強調してしまうだろう。

既に金融機関の収益に最大限配慮しているというのが日銀の説明

第3の選択肢は、「マクロ加算残高」で、所要準備額と貸出支援基金および被災地金融機関支援オペを除く部分に適用される金利を引上げることだ。しかしその場合、対象部分の規模が100兆円超となり、第2の選択肢と同様の問題を生じさせる。さらに、「マクロ加算残高」で、所要準備額と貸出支援基金および被災地金融機関支援オペを除く部分は、現在の政策の下では増加を続けることになるため、日本銀行の利払い負担が際限なく増加を続けることになってしまう。

以上の点から、日本銀行が政策金利を引き下げる追加緩和措置を実施する場合、既存の階層型当座預金制度を見直すことで、金融機関の収益への悪影響を緩和することは簡単ではなく、実際、採用されないのではないか。

そもそも、階層型当座預金制度という複雑な制度を導入することで、マイナス金利政策導入による金融機関の収益に最大限配慮した、というのが、2016年1月の導入決定以降の一貫した日本銀行の説明である。追加で軽減措置を講じる場合には、こうした説明と矛盾してしまうことにもなる。こうした点を踏まえても、政策金利引下げと共に、日本銀行が階層型当座預金制度を見直す可能性は小さいと考えられる。金融機関の収益に悪影響が及ぶことを覚悟の上、日本銀行は政策金利の引下げに踏み切るのではないか。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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