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ECBは予想以上の積極緩和策も意見対立は激化

2019/09/13

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積極緩和は新たな対立の火種に

9月12日の理事会で欧州中央銀行(ECB)は、金利引下げに加えて資産買入れ再開を決めるなど、事前予想を上回る積極的な金融緩和のパッケージ策を決めた。他方、この決定には理事会内で反対意見も多く、ドラギ総裁がそうした反対を押し切って断行したとの印象が強い。退任直前の最後の実績作り、あるいは置き土産のようなこの決定は、11月からのラガルド新総裁のもとで新たな対立の火種を残したと言えそうだ。

ECBは12日に3年半ぶりとなる金融緩和策を決めた。これは4つの政策のパッケージからなる。第1は、政策金利(中銀預金金利)を-0.4%から-0.5%へと引き下げたことだ。これについては、大方の予想通りの決定だ。その他の主要金利は据え置かれる。

第2は、フォワードガイダンス(政策方針)の修正だ。政策金利を少なくとも2020年上期までは現状あるいはそれ以下に維持する、との従来のガイダンスを、インフレ見通しが目標水準に達するまで現状あるいはそれ以下に維持する、とのガイダンスに修正した。時間軸の延長ではなく、時間軸ガイダンスを経済条件ガイダンスに置き換えたのはやや意外であったものの、フォワードガイダンスの修正自体は予想されていたことだ。

第3は、銀行に対するマイナス金利政策のコスト負担を軽減するために、当座預金制度を2段階とし、マイナス金利が適用される超過準備を一部に限定する決定がなされた。銀行のコスト軽減策については、以前よりECB内で議論されてきたが、意見が分かれていることから、今回の実施はやや難しいのではないかと筆者は考えていた。

資産買入れ策の再開には強い反対意見も

第4は、2018年末に終了させた資産買入れ策の再開である。11月1日から、月間ネット200億ユーロのペースで、国債等の買い入れを実施する。この施策については、事前にドイツ、オランダ、オーストリアといった中核国の中央銀行が反対の姿勢を示した上、フランス中央銀行も慎重な姿勢を見せたことから、見送られる可能性の方が高いのではないか、と筆者は考えていた。

実際、理事会後の報道によれば、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、エストニアの中央銀行総裁は、資産買入れ再開に反対したという。また、本部理事のラウテンシュレガー氏、クーレ氏も反対したという。

これだけの数の反対が出る中で、総裁が政策変更を決めたことはかつてなかったのではないか。ドラギ総裁が任期間近であったからこそ可能になったと言えるだろうが、そのつけはラガルド新総裁に回ってくる。この点を踏まえても、今回のドラギ総裁の決定は、ECBの政策決定方式に関して将来に問題を残した、と言えるのではないか。

日本銀行は当面静観か

ECBの予想以上の積極緩和パッケージの決定を受けて、ユーロは一時下落したものの、直ぐに水準を戻した。また欧州の長期国債利回りも、周縁国を除いて小幅に上昇した。これは、積極緩和策の決定で、市場での先行きの経済、物価見通しが改善したことによるのだろう。

ECBが予想以上の積極策を見せたことで、日本銀行にとっては緩和策実施のプレッシャーが高められた、と言えるだろう。ただし、現状では国内経済は比較的安定を維持している一方、10月の消費増税の影響を見定める必要があること、ドル円レートが足もとで円安方向に振れ、1ドル108円台とクリティカルな水準である100円までの距離が拡大していること、などを踏まえれば、9月の決定会合で日本銀行が、政策金利引下げなどの本格的な緩和措置を実施する、いわゆる「実弾」を打つ可能性は依然として低いだろう。

ECBの決定を受けた他国の反応としてもう一点注目しておきたいのは、トランプ大統領の発言だ。ECBの緩和策を「不当なユーロ安誘導策」として強く非難する可能性がある。この場合、対米関係に配慮して、日本銀行の追加緩和策にも一定程度制約要因となってくる可能性があるのではないか。

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