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世界経済の下方リスクを高める原油価格高騰

2019/09/17

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市場の楽観論に水を差した原油価格高騰

金融緩和期待、米中貿易摩擦の緩和期待などから、足もとでは世界的な株高傾向が生じていた。しかし、そうした市場の楽観論に突如水を差すことになったのが、原油価格急騰である。

きっかけは、9月14日に世界の原油生産量の12.7%(2018年)を占めるサウジアラビアの石油関連施設が、無人機による攻撃を受けたことだ。サウジアラビア政府は、生産が日量570万バレル減ったと発表した。これはサウジアラビアの生産量の約半分であり、世界の石油供給量の5~6%に相当するものだ。生産能力の復旧には数週間ないしは数か月かかると言われている。

サウジアラビアで起きた石油関連施設への攻撃を受け、15日のニューヨーク原油先物市場の時間外取引では、WTI(テキサス産軽質油)の価格は前週末から15%を超える大幅な値上がりとなった。また、アジア時間の16日早朝の取引で北海ブレント原油先物は一時19.5%も上昇した。

世界の原油供給への影響が5~6%であるなか、10%を大幅に超える原油価格の上昇は、かなり価格弾性値の低い需要曲線を想定しても過大であるように見える。さらに、米エネルギー省は、需給逼迫を避けるため、「必要ならば戦略石油備蓄(SPR)を放出する用意がある」と表明し、トランプ大統領も必要なら放出する許可を下した、とツイッターで述べた。

ただし、市場の懸念は短期的な原油需給への影響というよりも、中東情勢、特に米国とイランとの間の緊張激化のリスクに向けられている。イエメンで活動する親イラン武装組織フーシは、サウジアラビアの石油関連施設への無人機による攻撃を実行したと発表した。しかし、米国政府はイランの直接的な関与を指摘している。トランプ米大統領は15日に、「われわれは犯人を知っており、検証次第で臨戦態勢を取る」とツイッターで強調し、報復措置の可能性を示唆している。

日本経済への影響は短期的には大きくないが

今回のサウジアラビア石油関連施設の攻撃によって、イランと米国との関係が一段と悪化する場合には、原油価格の上昇は一時的な現象では終わらない可能性が出てくるだろう。世界経済に弱さが見られるなか、こうした供給側のショックによる原油価格上昇は、原油消費国から原油生産国への所得移転を伴いつつ、全体としては世界経済の下方リスクを高めることになろう。

とりわけ、原油輸入全体の4割弱をサウジアラビアに依存する日本にとって、サウジアラビアの原油生産量が一時的にせよ半減する事態は深刻である。内閣府の短期計量モデルによると、原油価格が20%上昇し、その水準が維持される場合には、日本の実質GDPは0.08%押し下げられる(1年目の効果)。無視できない影響とは言え、これだけで日本経済が大きな打撃を受けるとは言えないだろう。もちろん、原油の調達に支障が生じれば、それは甚大な影響となり得る。

他方、同じ計量モデルによると、世界需要の1%低下は日本の実質GDPを0.31%押し下げる(1年目の効果)。その影響は、原油価格20%の上昇の影響を大きく上回るものだ。

先行き、日本経済が安定を維持できるかどうかの鍵を握るのは、米国経済、特に米国の個人消費が堅調を維持できるかどうかであろう。8月の米小売売上高を見る限り、依然として個人消費の堅調は維持されている。

原油価格上昇は、原油純輸入国から原油純輸出国に転じつつある米国経済には、大きなマイナスとはならない可能性がある。企業部門でみれば、プラスである可能性も考えられる。しかし、原油価格上昇は堅調な米国の個人消費に打撃を与え、それを通じて、日本経済にも少なからず悪影響が及ぶ可能性がある。

今週、米国では0.25%の政策金利引下げ、日本では緩和策見送りとなる可能性が高いとみられる。足もとでの原油価格上昇が先行きの世界経済に与える影響は大いに気になるところではあるものの、原油価格上昇の持続性については未だ見極められない。こうした中、今週の日米の金融政策決定に与える影響はほぼないだろう。

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