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謎が深まる米国短期金融市場の混乱

2019/09/20

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米国の短期金利は一時10%まで急上昇

米連邦準備制度理事会(FRB)が、9月17、18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策を議論する中、米国の短期金融市場は大きな混乱に見舞われていた。

17日に翌日物レポ金利は一時10%にまで急騰した。短期金融市場の混乱を受けて、ニューヨーク連銀は17日、18日、19日と3日間にわたって大量の資金供給を実施した。その際に利用した手段が、翌日物システムレポ(自己勘定による売り戻し条件付き買いオペ)である。ニューヨーク連銀が、短期金融市場に資金を供給するオペを実施したのは、10年ぶりのこととなる。

中銀当座預金の水準は、日々の資金需給によって変化するものの、リーマンショック(グローバル金融危機)後にFRBが銀行から大量の資産を買入れる量的緩和策を実施したため、銀行の超過準備及び中銀当座預金は高水準となり、日々の資金需給の変化によって、銀行の資金調達に支障が生じることはなかったのである。

今回の短期金利急騰は突然生じたものだが、その背景にはいくつかの要因が考えられている。いわば犯人捜しである。まず、16日(月)は、企業が四半期の連邦税を支払う期限だった。企業は納税のためにMMFなどから大量に現金を引き出した。これは資金不足要因となる。また同日には、財務省が入札国債780億ドル相当の受け渡しを予定していた。これも資金不足要因だ。

財政・金融政策の変化が資金ひっ迫の背景に

他方、FRBの政策変更を受けた銀行の中銀当座預金(超過準備)の減少を、市場の混乱の背景にあげる向きもある。リーマンショック後にFRBは銀行から国債等の資産を買入れ、中銀当座預金を拡大させていたが、過去5年間は、資産買入れの減額措置と共に中銀当座預金の水準も低下していた。

足もとでの中銀当座預金は1.5兆ドル弱と、ピーク時の2.8兆ドルから大幅に減少している。FRBは先月、保有資産の削減を停止することを決めたが、それ以外の要因、例えば現金需要の増加などによって、中銀当座預金はなお減少を続けている。

構造的な側面からは、トランプ政権の下での財政拡張策が、政府の資金調達ニーズを急拡大させ、短期金融市場での資金不足環境を作り出している。これに、FRBの保有資産の削減策によって生じる短期金融市場での資金余剰の縮小傾向が重なることで、短期金融市場で資金のひっ迫が生じやすくなっていると説明できるだろう。

市場機能の低下が生じていないか

しかし、こうした要因だけで、短期金融市場の大きな混乱の理由を十分に説明できる訳ではないだろう。その意味で、謎は深まるばかりである。他方で注目したいのは、資金需給のひっ迫によって金利が上昇しただけではなく、市場のボラティリティが大きく高まったことである。これは、流動性の低下など、市場機能が低下している可能性を示唆しているのではないか。

短期金融市場混乱の中心となったレポ市場では、現在、証券会社やヘッジファンドが主な資金の取り手であり、MMFが主な資金の出し手となっている。リーマンショック後の金融規制強化の影響で、短期金融市場で銀行のプレゼンスが大きく低下したことが、流動性の低下など市場機能の低下につながったという面もあるのかもしれない。少なくとも、債券市場ではそうした傾向は明らかにある。

19日の記者会見でパウエルFRB議長は、短期金融市場の混乱は実体経済、金融政策に影響を及ぼさない、と説明した。一方、JPモルガン・チェースのダイモンCEOも、不況下で起きない限り、今回のような短期金融市場の混乱は大きな問題ではない、としている。

他方、短期金利の上昇を回避するために、FRBは資産買入れを再拡大させ、当座預金の水準を再び高める措置を検討する可能性があるだろう。しかし、それはいわば対処療法に過ぎない。そうした措置は、市場機能の低下という問題の本質を覆い隠してしまう可能性があるのではないか。

当局は、今回の短期金融市場混乱の背景をしっかりと調べ、リーマンショック後にとられた金融規制などが市場構造の大きな変化を通じて市場機能の低下につながっていないか、もう一度しっかりと点検し直す必要があるのではないか。

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