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ウォール・ストリートとメイン・ストリートの乖離

2019/10/23

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ニューヨークの活況は相変わらずだが

ワシントンでIMF(国際通貨基金)・世界銀行の年次総会関連会議に参加していた筆者は、今週初めにニューヨークに移動した。ニューヨークはかつて住んでいた街で、出張で訪れるのは7年半ぶりだ。

当地の雑踏と活況ぶりは相変わらず、との印象である。街は観光客で溢れかえり、新しいホテルも増えていた。空港からのタクシー料金、ホテルの宿泊代、ミュージアムの入場料など、あらゆる価格がかなり上がっている。最高値水準の米国株価に象徴される、当地の金融業の活況も影響しているのだろう。

ところで米国では、ウォール・ストリートとメイン・ストリートとの対比がしばしばなされる。ウォール・ストリートは金融業界あるいはニューヨークを中心とする地域、メイン・ストリートは金融以外の産業あるいは米国各地のことを示す。ウォール・ストリートとメイン・ストリートとの経済状態は乖離することが多い。現在もそうだろう。

トランプ大統領の大票田である中西部の経済状態は特に厳しい。中西部と言えば自動車産業など製造業が集中している地域であるが、輸出環境の悪化を背景に厳しい経済状態が続いている。シカゴ連銀が発表する中西部経済指標は、アイオワ、インディアナ、イリノイ、ミシガン、ウィスコンシンの5州の非農業部門の経済活動をカバーしているが、9月30日に発表された8月分の同指標は、5か月連続でマイナス圏に沈んだ。全米で見ても、9月のISM製造業指数は2か月連続で活動の縮小を示す50割れの水準となり、事前予想も下回った。特に落ち込みが目立ったのが新規輸出受注である。

中西部地域のもう一つの主要産業である農業も、米中貿易戦争による大きな打撃を受けている。中国への農産品輸出は過去2年間で急減し、特に大豆の落ち込みが顕著だ。その結果、農家は金銭的に行き詰まっているのである。米農業連合会(AFBF)の集計によると、全米でローン延滞件数と破産件数が増加している。2019年1-3月期には農業用途の商業不動産ローンのうち返済期限を30日以上過ぎたものが2.5%を占め、前四半期の2.1%から上昇した。

金融緩和が高める将来の金融危機のリスク

こうした中、堅調な個人消費が製造業や農業のスランプを補って、米国経済を支えてきた。それに深く関与しているのが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策だろう。今年に入ってからの金融政策の転換は、主に長期金利の低下を通じて金利に敏感な住宅投資、自動車購入などを支えてきた。さらに、金融緩和が株価を押し上げ、これも個人消費に強い追い風となっている。

9月の小売売上高は前月比0.3%減と事前予想の0.2%増を大きく下回るなど、個人消費の堅調ぶりにも不安が出ている。7-9月期の実質GDP成長率は、米国の潜在成長率と考えられる年率2%を下回り、経済情勢はいよいよ調整色を強めていく。それでも、金融緩和と良好な雇用・所得環境に支えられた個人消費の安定が続くことで、米国経済がなんとか後退局面入りを回避できる、というのが現時点での筆者のメインシナリオだ。

しかしながら、今の局面での金融緩和策は投資家に過度なリスクテイクを促し、金融市場のひずみを一段と拡大させる。金融緩和が当面の景気後退を回避させることに貢献するとしても、それは将来の金融危機発生のリスクを高め、その規模を一段と大きくしてしまうことになるのではないか。

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