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理事会内の対立を残し退場するドラギ総裁

2019/10/25

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政策手法は時代に流れに逆らう面も

10月24日の政策理事会で、欧州中央銀行(ECB)は政策変更の見送りを決めた。前回9月の理事会で複数の緩和措置を同時に実施していたことから、今回の決定は大方の事前予想通りだった。

今回は、8年間任期を務めたドラギ総裁の最後の理事会だ。11月からはラガルド前IMF(国際通貨基金)専務理事が総裁職を引き継ぐ。ドラギ総裁は、2012年に「やれることは何でもやる(whatever it takes)」という言葉で有名となった積極緩和姿勢で、欧州債務危機に揺れていた欧州金融市場の安定回復に努め、評価を得た。

その後も、主要中銀に先駆けてマイナス金利政策を開始、また資産買入れ策を実施するなど、非伝統的な政策を実験的に実施していった。こうした政策の奏功もあって、おそらくドラギ氏が最悪の事態と考えていた、ユーロ崩壊とデフレ突入は避けることができた。しかし、2%弱とする物価目標の達成はできなかった。ドラギ総裁の任期中の平均物価上昇率(消費者物価コア上昇率)は1.2%にとどまる。

他方、正常化措置はかなり初期の段階で再び緩和強化へと軌道修正を迫られた。今回の理事会後の記者会見でドラギ総裁は、「出口は遠のいた」との認識を示している。

ドラギ総裁の任期中に、米連邦準備制度理事会(FRB)議長の職は、バーナンキ、イエレン、パウエルと3代にわたり、その政策手法は市場との対話とFRB内のコンセンサスの2点を重視する傾向を強めていった。こうしたなか、ドラギ総裁の政策手法は、市場との対話よりも市場の期待誘導を図るもの、政策理事会内のコンセンサスよりも総裁のリーダーシップを優先させるものであったと言えるのではないか。この点で、やや時代の流れに逆らう政策手法という側面もあっただろう。市場の期待をコントロールするという政策手法は、その後日本銀行に引き継がれた感があるが、それは失敗に終わっている。

理事会内に大きな対立の構図を残した9月緩和策

政策理事会内のコンセンサスよりも総裁のリーダーシップを優先させるという政策手法が最も際立ったのが、前回9月の政策理事会だった。政策金利の引下げについては概ね政策理事会内でコンセンサスが成立していたが、資産買入れの再開などについては、ドイツ、オーストリアなどの強い反対を押し切って実施を決めた。この結果、政策理事会内での対立の構図は強まったのである。任期終了直前の段階でこうした積極策を決め、その結果生じる政策理事会内での対立を後任のラガルド氏に引き継がせるのは、責任あるやり方ではないのかもしれない。また、政策理事会内のコンセンサスを重視しないことは、委員会制度という近年世界の中央銀行に広まった政策決定の枠組みを軽視するもの、という点でも問題だ。

いわゆる危機の際には、こうしたドラギ総裁の政策手法は評価される面もあるが、今回は平常時に実施された点に問題があるように思われる。

ドラギ総裁が前回の理事会で事前予想を大幅に上回る積極策を打ちだした背景には、金融政策としてはできる限りのことをやったとの姿勢を見せ、財政政策、構造改革を促すという意図があったのかもしれない。今回の理事会後の記者会見でもドラギ総裁は、「財政政策があれば、金融政策はより短期でゴールにたどり着く」と述べ、ドイツなどを念頭に景気対策としての財政出動を求めた。これは前回の理事会後の記者会見での発言の繰り返しである。この点に、積極緩和の本当の狙いがあるのであれば、それをもっと強調して欲しかった。

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