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リブラに対抗するデジタル人民元発行が近づく

2019/10/30

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デジタル人民元にはブロックチェーン技術を利用

デジタル人民元とも呼ばれる中国の中銀デジタル通貨の発行が、いよいよ近づいてきたようだ。

政府系シンクタンクである中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は10月28日の講演で、中国人民銀行(中央銀行)が「世界で初めてデジタル通貨を発行する中央銀行になる可能性がある」と述べた。

一方、27日に新華社が報じたところでは、全国人民代表大会(全人代)は、暗号資産(仮想通貨)の発行に向けた準備となる、暗号資産(仮想通貨)に関する新法を可決した。新法は、「暗号資産ビジネスの発展を支え、サイバー空間と情報の安全性を確保する」のが狙いとされ、その発効は来年1月1日となる。この新法の制定に、デジタル人民元発行の環境を整える狙いがあるのだとすれば、デジタル人民元が来年年初から発行される可能性もある。

デジタル人民元の詳細については依然として明らかではないが、黄副理事長は、その発行技術にはブロックチェーン技術を利用する考えを初めて示した。今までは、ブロックチェーン技術は幾つかの選択肢の一つとされていた。習近平国家主席は24日、中国が産業上の優位を目指す上で、今後もブロックチェーン技術の「最前線に立ち続ける」よう求めた。その発言の背景には、デジタル人民元の発行技術にはブロックチェーン技術を利用するという決定があったと見られる。

この点から、デジタル人民元発行の狙いの一つが、ブロックチェーン技術で他国、特に米国に対して優位に立つことにあると推察される。

米国とリブラへの対抗を鮮明に

他方、黄副理事長は講演で、現行の国際金融の仕組みは「米国が世界的に覇権を行使する道具となっている」と、米国への対抗意識もあらわにしている。この点から、ブロックチェーン技術に基づくデジタル人民元発行の狙いの一つは、国際銀行間決済で絶大な影響力を持つ米国への対抗であることも明らかだ。中国はデジタル人民元による他国との間の資金決済を拡大させることで、人民元の国際化を推し進めることを狙っている。

この点から、デジタル人民元計画にとって大きな脅威となるのは、リブラ計画となる。中国以外でリブラの利用が広まり、デジタル人民元の普及の妨げとなれば、人民元の国際化推進の計画にも狂いが出てくるからだ。

デジタル人民元に対抗意識を持っているのは、リブラ計画を主導するフェイスブック側も同様だ。フェイスブックのザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は23日の米議会公聴会で、「中国は『一帯一路』構想の一部となる『デジタル人民元』計画を、アジアやアフリカで影響力拡大に使おうとしている」とし、デジタル人民元の脅威を米議会にアピールし、それに対抗するリブラへの支持を訴えた。

中国は真っ先にリブラ規制の法整備に

中国が警戒するのは、中国以外でのリブラの利用拡大だけではなく、中国国内での利用についても同様だ。

中国国家外為管理局(SAFE)の陸磊副局長は27日の上海・外灘サミットでデジタル通貨について語り、「国境を越える多くの違法な金融活動をもたらす可能性があり、すべての国、特に新興国市場にとって大きな懸念事項になる」と指摘した。また、リブラなどのデジタル通貨は外為規制を厳守しなければならず、国内取引において人民元の代わりになることはできないとし、そうでなければ禁止されるべき、と強いトーンで語った。

また28日には別の幹部も、リブラなどデジタル通貨は、中国の外国為替規制の枠組みに従う必要があるとし、デジタル通貨企業を含む中国本土の内外をまたぐ金融サービスを提供する企業は、免許を取得する必要があると指摘した。さらに、中国本土の取引は人民元でしなければならず、人民元でしかできないとも語り、国内でのリブラの利用を認めない考えを明確に示している。

このように中国は、中国以外でデジタル人民元をリブラに対して優位に立たせることを狙う一方で、中国国内でのリブラ利用を原則禁止するスタンスなのである。

リブラ計画は、通貨制度、国際決済制度を巡る米中間の覇権争いをより先鋭化させているが、先進各国でリブラ計画への対応が具体的になかなか進まない中、中国はいち早く法制面での対応を進めているのである。

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