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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

規模が先にありきの経済対策となっていないか

2019/12/03

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大規模経済対策が必要な経済情勢か

12月5日にも政府は、経済対策を閣議決定する見込みだ。各種報道によれば、財政投融資も含めた財政措置額は13兆円程度となる。これは、2016年8月に実施された前回経済対策の13.5兆円に匹敵する規模だ。さらに、民間企業の支出なども含めた総事業費は25兆円台に達するなど、極めて大規模な経済対策となる模様だ。

より詳細な内訳を見ると、中央・地方政府が直接支出する国費は総額7兆円台半ば程度、このうち一般会計については4兆円台前半を2019年度補正予算に、1兆円台後半を2020年度当初予算にそれぞれ計上し、合計で6兆円程度の規模とする。さらに特別会計は、計1兆円台半ばが計上される。他方、公共事業に伴う地方自治体の負担分は1兆円台後半となる見通しだ。また、政府が高速道路や空港整備などの各種事業に融資する財政投融資として、3兆円台後半の規模が対策に盛り込まれる見通しだ。

経済対策には、「アベノミクスのエンジンを再点火」との表現が、その狙いとして示される見通しである。アベノミクスの総仕上げの現段階で、経済政策は財政拡張策、つまり「第2の矢」に行き着いた感がある。その背景には、金融緩和策が期待した効果を発揮できなかったことや、政府が実効性のある構造改革を打ち出すことができなかったことがあるだろう。

しかし、国内経済がなお安定を維持し、世界経済にはむしろ持ち直しの兆しが見られ始めたこの局面で、なぜこうした大規模な経済対策が必要であるのかは大いに疑問である。この点を政府はしっかりと国民に説明する必要があるだろう。

財政健全化の議論は封じ込められた感も

今回の経済対策は、「規模が先にありき」感が強いことが、大きな問題なのではないか。経済対策の議論が政府、与党内で始まった際に、二階俊博幹事長は「10兆円を下らない程度が必要」と強調していた。また、世耕弘成参院幹事長も10兆円規模に言及し、会見では「アベノミクスの総仕上げ」と述べたのである。

台風15、19号などの災害復旧、防災対策が、今回の経済対策の大きな柱である。これは確かに必要な支出項目ではあるものの、その具体的な内容は、もっと時間をかけてしっかりと精査されなければならないのではないか。国と地方公共団体、そして住民が議論を重ねたうえで、最適な防災対策を決めるべきだろう。東日本大震災後には、住民が十分に納得していない巨大堤防の整備などが進められてしまった。そうした失敗が再び繰り返されないだろうか。

他方、与党内からは、財政規律に配慮して経済対策の規模を抑制するような議論は聞こえてこない。これまで財政規律を重視する発言をしてきた岸田文雄政調会長も、「財政の制約でタイミングを逸してはならない」と大規模な財政出動を求めており、財政規律重視の議論は封じ込まれている。

このような点から、巨額の経済対策の実施は、消費税率引き上げ決定時からの既定路線であったのではないか、との印象も拭えない。政府は、消費税率引き上げを通じて財政健全化路線を歩んでいることをアピールする一方、それが経済を悪化させる場合には失策との批判を国民から浴びるリスクに配慮して、消費税率引き上げによる景気抑制効果と財政健全化効果を大きく凌駕する規模の経済対策を、消費税率引き上げとほぼ同時に、いわば合わせ技で実施するのである。

短期的には相応の景気浮揚効果はあるが

そうした政策は、短期的には国民に支持されやすいが、長い目で見れば将来世代を含めた国民の負担増加となって跳ね返ってくる。国民に目先の利益に目を向けさせるこうした施策は、ポピュリズム(大衆迎合)的でもある。

政府は、財政健全化の方針も意識して、経済対策の相当規模をインフラ投資とし、資金の調達を極力、建設国債で賄うことに努めるのではないか。しかし、一般的な財源不足を補う赤字国債と、インフラ投資の財源とする建設国債との違いはあまり本質的ではない。まず、政府債務の増加という点では両者に違いはない。

さらに、将来世代もその便益を得る道路、橋などの公共インフラについては、将来世代も負担する建設国債で資金を調達するのが公正、との考えはあるものの、将来世代が必ずしも必要としないインフラ整備を建設国債で賄えば、将来世代に不当な負担を強いることになってしまう。この点から、赤字国債と建設国債の区別は曖昧であり、便宜的な側面も小さくない。

中央・地方政府が直接支出する国費の総額7兆円台半ば程度が、今回の経済対策の「真水部分」と考えられるが、仮に7.5兆円規模の政府支出(公共投資と政府消費の合計)が実施された場合、内閣府の経済財政モデル(2018年度版)によると、1年間で実質GDPは0.65%押し上げられる計算となる。日本の潜在成長率が0.8%程度であることを踏まええると、かなりの景気浮揚効果が2020年度を中心に発揮されることになるだろう。

しかし、こうした財政拡張は、短期的には民間の投資活動を阻害する、いわゆるクラウディングアウトを生んでしまう。さらに長い目で見れば、政府債務の増加を通じて将来世代の需要を悪化させてしまう。これは、現在の企業の中長期の成長期待を低下させ、雇用、賃金、設備投資の抑制を通じて現在の景気にも抑制効果を発揮してしまう。さらに、設備投資の抑制は生産性上昇率や潜在成長率の低下を促し、国民生活の安定を脅かす要因ともなろう。

政府は中長期の視点に立って経済の発展、国民生活の安定と改善を促す経済政策を選択していくことが求められる。また国民も、政府の経済政策が選挙など目先の政治イベントを意識したポピュリズム(大衆迎合)的なものに陥っていないかを、常に厳しくチェックする目を持つことが求められるだろう。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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