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10年国債利回り0%は日銀に朗報

2019/12/10

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イールドカーブコントロールの信認確保と円高リスクとの間で板挟み

10日の国内債券市場で、新発10年国債利回りは0%の水準まで上昇した。同利回りがマイナス金利を脱して0%となったのは、今年3月6日以来のことである。イールドカーブコントロールのもとで、0%程度を新発10年国債利回りの目標値としている日本銀行は、年末近くになってようやく利回り環境が正常化した、と安心していることだろう。

今年の長期国債利回りは、主要国経済の減速や米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和策への転換を受けて、春先以降に大幅に低下した。8月末から9月初めにかけて10年国債利回りは-0.3%程度と、日本銀行が10年国債利回りの誘導目標レンジの下限としている-0.2%程度を0.1%ポイントも下回る水準にまで低下した。

長期国債利回りが誘導目標レンジの下限を大幅に下回っている状況が長期間すると、それは、日本銀行がオペを通じて長期国債利回りを誘導できないことを露呈することとなり、イールドカーブコントロールという枠組みの信頼感が大きく損なわれるリスクがあった。

しかし、その時点で、日本銀行が長期・超長期国債の買入れ減額を通じて、長期国債利回りの押し上げ、イールドカーブのスティープ化を図れば、それは円高リスクを高めることになった。円高を強く警戒する日本銀行にとって、イールドカーブコントロールの信認確保と円高リスクとの間で板挟みとなり、身動きが取れなくなっていたのが今夏のことであった。

後退する日本銀行の政策金利引下げ観測

9月の政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、イールドカーブのスティープ化が望ましいと明確に発言し、その方針を裏付けるように、長期・超長期国債の買入れ減額を断行した。それが可能となったのは、FRBの利下げ打ち止め観測が広がり、米国の長期国債利回りが上昇すると共に、為替が円安に振れ、円高リスクが後退したからである。そうした環境の下で、日本銀行は長期・超長期国債の買入れ減額を通じて、国内長期利回りのいわば押し上げ介入を進めたのである。

新発10年国債利回りが0%まで上昇したことは、そうした日本銀行の調節が上手くいったことを示しているように見える。しかし実際には、日本銀行がオペを通じて長期国債利回り、イールドカーブをコントロールすることは難しいと筆者は考える。それが可能であると考えるのは一種の幻想なのではないか。

新発10年国債利回りが8月末から9月初めにかけての-0.3%から0%まで0.3%ポイント上昇したのは、海外での長期国債利回りの上昇によるところが大きい。実際、この間に米国の10年国債利回りは、0.4%ポイント~0.5%ポイント上昇している。

日本銀行のオペの方針変更が国内長期国債利回りに与える影響は小さいと考えるが、金融政策、特に政策金利変更の見通しの変化がそれに与える影響は相応にある。現状の国内国債市場のイールドカーブは、一時高まっていた政策金利引下げ、いわゆるマイナス金利深掘りの観測がかなり薄れてきたことを示唆している。こうした政策期待の変化も、10年国債利回り0%達成の原動力となったのである。

今後の長期国債買入れオペに注目

日本銀行は、様々な副作用を高める追加金融緩和策をできるだけ回避したいと考えているだろう。実際、円高が急速に進むような局面以外では、政策変更を見送ることが予想される。

10年国債利回りが0%まで戻った結果、日本銀行はイールドカーブコントロールという枠組みの信頼感をある程度取り戻すことができた。それに加えて、この0%は、日本銀行ができれば避けたいと考えている追加緩和の実施を強いられるリスクが、とりあえず低下していることを意味する。この2つの意味で、10年国債利回りの0%は、日本銀行にとって非常に朗報、クリスマスプレゼント、年末のボーナスのようなものである。

この先は、日本銀行が長期国債買入れオペの方針を変化させるかどうかが大きな注目点だ。日本銀行が長期国債買入れオペの増額に動けば、現状程度の利回り水準が望ましい、との日本銀行の判断を示すことになる。

他方で、オペの増額などの修正はせず、さらなる長期国債利回りの上昇を容認する場合には、それは金融機関の収益に配慮した一種の正常化策という性格を帯びていくことになる。今年は、追加緩和余儀なし、という状況から、将来の正常化を視野に入れる状況まで、日本銀行の政策姿勢は大きく振れている。

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