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ECBの1月政策理事会のAccounts-grounds of optimism

2020/02/21

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はじめに

ECBによる1月の政策理事会も、1月のFOMCと同様に新型肺炎の影響をまだ考慮しなかったこともあり、執行部を中心に景気の下げ止まりを示す議論が目立った。一方、金融政策の見直しは、政策理事会のレベルではまだ開始されなかったようだ。

景気の判断

執行部の立場からレーン理事は、ユーロ圏の内需について、個人消費が引続き拡大している一方、設備投資は依然として弱く、当面はこうした構造が維持されると評価した。

このうち個人消費は、賃金の堅調な伸びに加えて、域内国の政府による減税や所得移転を中心とする財政支出の緩やかな拡大に支えられているとの理解を示した。また、設備投資に関しても、企業のセンチメント指標に安定化の兆しがみられる点を指摘した。

政策理事会のメンバーも、こうした見方を概ね(generally)共有した。つまり、ユーロ圏経済は前回(12月)の見通しに沿った形で緩やかに拡大しているとしたほか、1月の政策理事会の時点で入手しうる指標は、経済活動の下げ止まりと安定化を示唆しているとの見方を示した。

もっとも、その背景の一つである海外経済の不確実性の低下に関しては、米中摩擦に関して第一次合意に達しても多くの関税が残されている点や、Brexitの移行期間における英欧間での調整の難しさなどを理由に慎重な姿勢を示す向きもみられた。また、ユーロ圏内での製造業から非製造業へのストレスの波及にも、引続き注意が必要との意見も示された。

その上で、政策理事会のメンバーは、先行きのリスクは依然として下方に傾いている点でも、レーン理事の判断に合意した。ただし、この点に関しては、経済指標の前向きな兆候を見逃さず、リスク評価の修正が遅れないようにすべきとの意見と、過度に楽観的にならないよう注意すべきとの意見に分かれたようだ。

物価の評価

同様に執行部の立場からレーン理事は、足許の総合インフレ率がエネルギー価格の上昇を反映して若干加速した一方、コアインフレ率は横ばいとなっており、いずれにしてもインフレ目標を大きく下回る状況にある点を確認した。この間、賃金は幅広いセクターで引続き力強く上昇している点を付言した。

これに対しインフレ期待は、サーベイベースの結果をSPFに即してみると、2019年中に生じた下方修正の連続に歯止めがかかった点を歓迎した一方、市場ベース(5年物の物価連動債による)は依然として低位である点を確認した。

政策理事会のメンバーも、こうした評価を幅広く(broadly)共有した。その上で、総合インフレ率は当面は現状の上昇率を維持する可能性が高いとしつつも、インフレ率の基調には若干の前向きな兆しもみられると指摘した。また、実際のコアインフレ率が前回(12月)の見通しに沿って推移していることへの安堵も示された。

もっとも、賃金上昇の堅調な伸びがインフレ率に反映しにくい状況にある点への懸念を引続き示す向きがみられた。インフレ期待も、下げ止まったとはいえ引続き低位であるほか、市場ベースの推計はリスクプレミアムの影響を考慮する必要があるとしても、今後数年にわたってインフレ目標を達成する可能性が低いとの見方が共有されている点に留意を示す向きもみられた。

金融環境の評価

新任のシュナーベル理事は、執行部の立場から、前回(12月)の政策理事会以降に市場のセンチメントが好転した点を確認した。

また、この間のユーロ圏の長期金利の動きについて、①政策金利の予想パスは米国ほど低下せず、むしろ足許で上昇した、②しかし、term premiumの低下は米国に比べて顕著に根強い、との分析結果を示し、②はECBによる資産買入れ再開の効果が大きいとの理解を示した。

レーン理事も、金融緩和の効果が銀行貸出の拡大を支えているとの見方を示した。さらに、直近(第1四半期)のBLSによれば、銀行の与信姿勢が不変とみられる点に関しては、与信に対する慎重なスタンスと銀行間での貸出競争とがバランスしたものと評価した。

政策理事会のメンバーも、幅広く(broadly)こうした見方を共有したが、上記のBLSで貸出需要の減少が2013年以来初めて示されたことや、貸出の拒絶率が上昇したことに懸念を示す向きがみられた一方、銀行の企業や家計に対する与信姿勢には大きな変化がない点を強調する向きもみられた。

金融政策の判断

こうした議論を踏まえて、今回(1月)の政策理事会は金融政策の現状維持を決定したが、レーン理事は、ユーロ圏経済の安定化の兆しを踏まえて、楽観的な見方を支えるより強い根拠が生ずるかどうか待ちたいとの期待を示した。

これに対し、政策理事会のメンバーも、こうした評価を幅広く(broadly)共有し、9月の金融緩和パッケージが緩和的な金融環境の維持に寄与しているとして、金融緩和の効果に対する自信を示した。

今後に関しては、金利のフォワードカーブからみて、市場も追加利下げの可能性を全く織り込んでいないとみられる点を指摘したほか、上記の金融緩和パッケージについても、ユーロ圏経済に所期の効果を発揮するには時間を要すると主張した。

また、政策効果を評価する上では副作用も考慮に入れるべきとの指摘もなされ、金融仲介が銀行主導から市場主導にシフトする下での過剰なリスクテイクや、企業収益の見通しが改善しない下での株価のバリュエーションといった留意点を挙げる向きがみられた。

なお、今回(1月)の記者会見でラガルド総裁が正式に開始を表明した金融政策の見直しに関しては、議事要旨の上では対外声明の問題意識を確認しただけで、具体的な議論は記載されていない。

政策理事会のメンバーからは、金融政策の見直しに関する議論が、当面の政策運営を拘束すべきでないといった意見がみられたように、議論の進捗をどのような形で対外的に発信していくのかという点自体も、課題の一つになっているようだ。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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