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日銀の黒田総裁の記者会見-緊急会合での追加緩和

2020/03/16

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はじめに

日銀も本日、臨時のMPMを開催して、金融市場に対する潤沢な資金供給、企業金融の支援、リスクプレミアムの抑制の3本柱からなる追加緩和パッケージを決定した。黒田総裁の記者会見と併せて内容を検討したい。

コロナウイルス問題の影響に対する認識

声明文によれば、日本経済が、中国向けを中心とする外需の減少や国際的なサプライチェーンへの打撃によって、弱い動きとなっている点を認識した。また、インバウンド観光客の減少や国内におけるイベントの自粛もあって、企業のセンチメントは悪化しているとした。また、金融環境は全体的には緩和的ながら、中小企業の資金繰りなどで緩和度合いが低下したとの理解を示した。

このため、日本経済は当面は弱い動きが続くが、各国の政策対応によって感染症拡大の影響が和らげば、もとの緩やかな拡大基調に復するとの見方を維持した。ただし、コロナウイルスの国内経済や海外経済に対する影響については、その大きさや持続性の点で大きな不確実性があることを認めた。

記者会見では、数名の記者がこの不確実性を取り上げたのに対し、黒田総裁は、特に海外経済については、コロナウイルスが時間的ラグを伴いながら拡散しているだけに、回復時期には大きな不確実性があるとした。

これに対し日本経済については、比較的早期に経済活動が回復しつつある中国の恩恵を受けて、外需やサプライチェーンの回復が進むとして、幾分楽観的な見方を示した。

政策決定の内容

今回決定した金融緩和パッケージの概要は以下の通りである。

第一に金融市場に対する潤沢な資金供給である。具体的には、主要6中銀の協調行動に即して、米ドル資金供給の条件を緩和するほか、先週末(3/13日)に公表したように、国債買入れ等の機動的運営による円資金の潤沢な供給を続けるとした。

第二に企業金融支援のための措置の導入である。まず、民間企業債務を担保とする新たな資金供給オペの導入を決定した。期間は1年で、利用額の2倍がマクロバランス残高にカウントされる(従って付利は0%になる)。本オペは本年9月まで実施する。

加えて、既存のCP買入れと社債買入れについて、残高の上限を各々1兆円引上げ、3.2兆円と4.2兆円とした。これも本年9月まで継続する。

第三にETFとJ-REITの買入れの拡大である。それぞれについて現行の買入れペース(年間6兆円増加、および年間900億円増加)を維持しつつも、当面の間は、各々年間12兆円増加と年間1800億円増加へと倍増する。

黒田総裁は、記者の質問に答える形で、これらの一連の措置が、市場の安定を通じて家計や企業のセンチメントの悪化を防ぐとともに、中小企業の資金繰りを支えることを目的としている点を再三強調した。また、ETFやJ-REITの買入れについては、リスクプレミアムの抑制に主眼があるとの考えを確認した。

これに対し、多くの記者からは、金融市場が不安定化し始めてから相応に時間が経過しているにも関わらず、なぜこのタイミングで金融緩和を決定したのかを問う質問が多く示された。

これに対し黒田総裁は、コロナウイルスの影響が多くの主要国に急速に拡大している点を基本的な背景として挙げた。その上で、3月末に向けて、日本円や米ドルの資金調達を安定させることは、日本の銀行や企業にとって重要であるとの認識を確認した。さらに、黒田総裁は、今回の政策決定が国際的な政策協調の一環であることも指摘した。

また、数名の記者は、今回の政策決定後に株価が反落したことに言及しつつ、政策効果に懐疑的な見方を示した。これに対し、黒田総裁は市場の短期的な反応を重視すべきでないとした上で、今回の緩和パッケージは、現在の局面で日銀に求められている役割を果たすように設計されていることを確認した。

さらに、別の数名の記者は、今回の金融緩和パッケージにマイナス金利の深堀りが含まれなかったことに言及しつつ、金融仲介に対する副作用のために、この手段の採用を見送ったのではないかとの見方を示した。

黒田総裁はそうした理解を強く否定し、マイナス金利の深堀リは直接的には銀行の預貸利鞘を縮小するとしても、結果として銀行貸出が拡大すれば、銀行収益をむしろ支援することになるとの見方を示した。その上で黒田総裁は、必要な場合にはマイナス金利の深堀りも行う用意があるとの考えを確認した。

記者会見で取り上げられたもう一つの重要なポイントは、追加緩和の余地である。つまり、日本経済がさらに悪化した場合には、どのような手段を講ずるのかを問う向きがみられた。

黒田総裁は、コロナウイルスの影響の大きさや期間には不透明性があるとしても、基本的には一時的な問題であるとした。併せて、金融機関の頑健性は高く、物的資本や人的資本は毀損していないので、世界金融危機のように影響が長引くわけではないとの理解も示した。その上で、必要な場合には躊躇なく追加緩和を講じるスタンスを確認したが、具体的な政策手段の言及は避けた。

政策判断に関する議論

日銀による今回の追加緩和の考え方自体は、FRBやECB、BOEと基本的に同じであり、黒田総裁が強調したように、具体的な政策手段は、現在の日銀にとって最重要課題である市場の安定と企業金融の支援に向けられている。

もっとも、市場からみれば、ETFの買入れ強化がどの程度続くのかが不透明であったほか、国債買入れの機動的運営も量的なイメージが掴みにくかったかもしれない。

より長い目で見た場合には、一部の記者が取り上げたように、コロナウイルスの影響が収束に向かい、日本経済を元の回復軌道に戻すことが最優先課題となった段階で、日銀にはどのような政策手段があるのかがポイントであり、マイナス金利の深堀りの適否も焦点の一つである。

黒田総裁も認めたように、財政政策に期待する面が大きいのであれば、4月に予定される政府の追加経済対策に対して、金融政策がどのように協調していくかに注目が集まることとなろう。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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