フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 BOEによる一連の対応策-distance from the government

BOEによる一連の対応策-distance from the government

2020/03/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

先週は、BOEも次々に金融仲介機能の維持に向けた対策を導入した。それらは、政府との協調に関して注目すべき特徴を有している。内容を整理した上で、意味合いを検討したい。

CCFF

17日に財務省(HMT)とBOEが共同で導入を発表したのが、Covid Corporate Financing Facility(CCFF)である(ただし、実施を担うSPVの設立は23日以降)。

HMTが特別目的会社(SPV)を新設し、BOEがこれに貸付を行う(条件は未公表)ことで、SPVが(ディーラー経由または市場から)CPを買い入れる。対象は、英国法人(ノンバンクを含む)の1年以内物で、A3(ないし同格)まで対象とする。買入れ利回りは、満期の同じOISにスプレッドを乗せる形とし、このスプレッドは今回の危機前の水準と格付をもとにBOEが決定する。

本措置の目的は企業の資金活動を支えることにあり、BOEは、比較的規模の大きい企業による市場ベースの資金調達を維持することで、銀行による中小企業向け貸出の能力を下支えすることにも繋がるとの考えを示している。

APF

次に18日にBOEが臨時MPCで決定したのが、国債および社債買入れの増額である(20日から開始)。

これまでBOEは、過去にAPF(詳細は後述)を経由して実施した資産買入れについて、再投資を継続することで残高を4450億ポンドに維持してきた。今回の決定により、国債と社債の買入れを再開するとともに、残高の上限を6450億ポンドまで2000億ポンド引き上げる。

本措置の背景について、BOEは、投資家による(中央銀行預金の密接な代替物としての)短期資産への志向の強まりによって、英国債(Gilt)の市場機能が悪化していることを指摘している。また、実際の買入れも国債が大半を占めるとの見方を示している。

つまり、国債市場の機能を維持することで、国債金利の不安定化が経済活動に与える影響を抑制しようとしている訳である。

スキーム上の特徴

BOEによる国債や社債の買入れは、従来からBank of England Asset Purchase Facility Fund(APF)と称する特別目的会社(SPV)によって行ってきた。BOEはこれにバックファイナンスを行うとともに、実際の買入れを運営する。

しかし、こうした買入れから生ずる利益や損失は全てHMTに帰属し、BOEによる貸付は影響を受けない。因みにこのAPFは、最初は資産買入れの終了時に清算し、残余利益をHMTが回収することになっていたが、資産買入れの長期化に伴い、2013年以降はAPFの留保利益は一定のルールに沿ってHMTに順次納付されるようになっている。

今回の資産買入れの増額に際しても、APFの利益や損失が全てHMTに帰属する枠組みは不変に維持された。また、新設されるCCFFのためのSPVにもこうした枠組みが援用され、BOEはバックファイナンスを行うとともに、買入れの実務を運営するが、CCFFに生じる利益や損失はHMTに全て帰属し、BOEによる貸出には影響が生じないようにされている。

一連の措置の意味合い

今回のAPFの増額については、結果はともかく少なくとも狙いに関しては、タームプレミアムの抑制を通じた長期金利の押下げといった普通の「量的緩和」ではなく、世界的に進行している投資家の換金売りによって国債市場の機能が低下していることへの対策である点が強調されている。

上記のようにCCFFが企業向け与信の下支えを狙ったものであることも考えると、一連の対策はマクロ的な金融緩和というよりも、信用緩和、ないし「市場機能の最後の担い手」の機能の発揮と位置付けることができる。

一方、利益と損失を全てHMTに帰属させる方法には、APFによる資産買入れという先例があるほか、総裁と蔵相の間でのRemitの交換も、当初はインフレ目標の未達時のみだったのが、最近は常態化しているという意味で新味があるとは言えない。 それでも、CCFFでも、実務はBOEが担うが利益と損失は全てHMTに帰属する枠組みを採用したことは、部分的な信用補完を提供した米国のケースに比べて、政府と中央銀行との密接な連携を印象付ける面はあり、そうした印象は、今回も行われたBOEのベイリー総裁とHMTのスナック蔵相とのRemitの交換によって強められている。

その上で気になるのは、BOEによる公表文の中で、国債や社債の買入れを流通市場から行うとしつつも、発行市場に対する参加の可能性も引続き検討するとしている点である。確かに、この公表文だけでは、発行市場への参加が国債と社債のいずれか一方なのか、それとも双方なのかは判然としないが、もしも国債を発行市場から買うとすれば、技術的な問題には止まらなくなる。

確かに、英国経済にとっては、今回の問題が収束したとしても、さらにBrexitの交渉を巡る不透明性や実質的なNo-Deal化のリスクを考えると、心配すべきことはインフレではなくデフレの方だと考えることはできる。また、上記のようなAPFの枠組みの下では、仮にGiltの価格が下落しても、BOEの財務の健全性に直接の影響は生じない。

しかし、英国も他の先進国と同じく、これから大規模な財政支出を行うことが想定されている。しかも、米国と同じく経常収支は盤石とは言えず、国債発行は海外投資家に相当な部分を依存せざるを得ない。さらに言えば、今回の換金売りでも生じた可能性があるが、国債市場からの資金流出がクロスボーダーでの資金流出に直結することも考えられる。 これらの点を考慮すると、BOEが国債の発行市場に直接参加することは、他の主要国以上に慎重である必要がある。金融監督の専門家であり経験の豊富なベイリー総裁は、そんなことは当然十分に認識しており、適切な判断を下すであろうが、外部環境や枠組みには心配の種も散見される。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ