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3月のFOMCのMinutes-Different scenarios

2020/04/09

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はじめに

3月15日の臨時FOMCにおいて、FOMCメンバーは金融市場の機能低下の実情を共有していた一方、米国経済の先行きについては大きな不透明性に直面していたことが確認された。

金融市場の動向

FRBNYとFRBスタッフによる金融市場の動向に関する説明は、多くの資産価格のボラティリティが顕著に上昇したとともに、広範な金融市場で機能が低下したことを強調している。

クレジット市場では、企業のデフォルト確率が上昇する中で、低格付社債やレバレッジローンの発行が実質的に停止したほか、CP市場でもディーラーによる仲介機能が低下し、一週間を超えるターム物の発行がほぼ消滅した。ストレスは、地方債市場にも波及しつつある。証券化商品の市場でも、ABSやCMBSの発行が減少し、MBSも、オリジネーターの資本制約や借換え需要の急増を主因に利回りが上昇した。

米国債市場でもディーラーの一部が仲介機能を低下させたこともあって、off-the-runの銘柄の取引が事実上消滅し、ターム物のレポ取引が顕著に減少したほか、外貨スワップ市場でもドル調達のプレミアムが顕著に上昇した。FRBNYはレポオペのオファーを増強したが、米国債市場の機能が改善しなかったため、FOMCと協議して国債買入れのペースを上昇させたが、効果は限定的であったとしている。

実体経済の動向

米国経済に関しては、会合開催時(3月15日)には国内でのコロナウイルスの感染者数や、主要都市における経済活動の低下が深刻化する前であったこともあり、ハードデータだけでなくソフトデータも十分入手できていない。このためFRBスタッフの説明のほとんどは、2月までの経済活動が製造業の一部を除いて堅調であったことを確認する内容であった。

これに対しFOMCメンバーは、先行きの不透明性を議論した。消費は、マインドとバランスシートの双方が毀損するリスクを指摘し、オンラインショッピングの増加では消費の減少を補いにくいと指摘した。住宅投資も、対面販売の困難さに加え、所得に対する不安によって影響を受けるとした。

また、地区連銀総裁とみられるメンバーは、多くのイベントの中止や家計や企業による旅行や出張の抑制、海外からの入国制限、対面機会を伴う経済活動の抑制などが顕現しつつあることを報告し、関連業種に対する深刻な影響を示唆した。

ただしサプライチェーンに関しては、建設関連を除いて中国関連も一部は維持され、在庫の取り崩しや代替的な供給経路の確保も可能といった報告がなされた。ただし、欧州関連のサプライチェーンには、人的往来の制限もあって懸念が示された。

これらを踏まえ、FOMCメンバーは企業で雇用削減が生ずる懸念を示した。もっとも、問題終息後の需要回復に備え、雇用削減を回避する動きもあるとの指摘もなされた。具体的には、労働者に対する休暇取得の奨励や退職者の人的補充の見送り、店舗販売から配送サービスへの切り替え等によって行っているとした。

経済見通し

FRBスタッフは、前回(1月)のFOMC時点に比べて経済見通しを大きく下方修正したほか、年後半の回復と来年初からの回復という二つのシナリオを提示したが、内容は明らかにしていない。

FOMCメンバーも、コロナウイルス問題が当面の経済活動を下押しすることに同意する一方、影響がどの程度継続するかは不透明であり、先行きに対する大きな下方リスクになるとの見方で一致した。また、最も重要な要素として、コロナウイルスの国内での感染が想定以上に拡大する恐れを指摘した。

その上で各メンバーは様々なシナリオを提示したが、経済に対する影響の長さと深さに関する見方は区々であったようだ。数名(several)のメンバーは、基本的には一時的な問題であるとしたほか、金融セクターに起因している訳でなく、かつ銀行システムは健全であるので、前回の金融危機のように終息後も長期にわたって影響を及ぼすとは限らないと主張した。

また、FOMCメンバーは、医療政策と財政政策の運営如何が、民間企業の対応とともに、米国経済の回復のタイミングや速さを左右する上で重要と指摘した。その上で、FRBによる金融市場のストレス緩和に向けた対応は家計や企業への与信を維持することで下方リスクを抑制するほか、金融緩和は中期的にも経済活動を下支えすると指摘した。

政策判断

FOMCメンバーのほとんどが100bpの利下げを主張し、その理由として、コロナウイルス問題が経済活動に影響を与え始めているだけでなく、影響の長さや深さに関する不確実性が高い点を指摘した。こうした主張に賛同するメンバーは、大幅利下げは経済のリスクマネジメントの観点に基づくとの考えを示した。先行きに関しても、米国経済がこの問題を克服するまでは、政策金利をそのまま維持すべきとの考えを示した。

これに対し数名(a few)のメンバーは50bpの利下げを主張し、金融市場を通じた政策の波及や、家計や企業に対する与信の下支えが効率的に機能しているかどうか確認すべきと指摘した。加えて、この間に医療政策や財政政策が効果を発揮することで、金融政策手段を温存しうるとしたほか、3月初の50bp利下げに続いて短期間に100bp利下げを追加することは、景気見通しに対する過度に悲観的な見方を示唆するとの考えを示した。

米国債やMBSの買入れの強化に関しても、FOMCメンバーはその必要性に概ね(generally)合意したほか、必要に応じて今後も強化する用意を示すべきとの考えを示したが、数名(some)のメンバーは、こうした買入れが長期金利の抑制による金融緩和の強化ではなく、あくまでも市場機能の支持にある点を強調すべきと主張した。

市場との対話も論点となり、上に見たような過度に悲観的な見通しを示唆するリスクやELBへの政策金利の引下げが市場金利の一部をマイナス領域に誘導するリスクが指摘された。その上で数名(several)のメンバーは追加緩和の余地が限定された印象を与える恐れを指摘したが、他の数名(some)のメンバーは、政策金利がELBに達しても、フォワードガイダンスと量的緩和によって金融緩和を強化しうると反論した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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