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ECBの3月政策理事会のAccounts-大胆、協調、緊急

2020/04/10

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はじめに

ECBが3月に2回開催した政策理事会のうち、初回(11~12日)では経済の先行きに対する不透明性の高まりが意識された一方、二回目(18日)には国債利回りの上昇等による金融環境のタイト化が焦点になった。

金融市場の動向

初回(11~12日)には、シュナーベル理事が執行部の立場から、この間の市場の特徴を、①資産価格の過大評価の修正、②主要な中央銀行による大規模な金融緩和への期待、③広範な市場でのボラティリティ上昇と資料流動性の低下、④「質への逃避」の発生、の4点に整理した。

これに対し二回目(18日)では、同じくシュナーベル理事が、ユーロ圏がコロナウイルス感染の世界的中心になる中で、銀行株を中心とする株価の低下が日欧より大きい点を指摘した。加えて、国債市場の流動性が一段と悪化する中で、大規模な財政出動の予想を背景に長期金利が反転上昇するとともに、域内国の利回りスプレッドが顕著に拡大したことを指摘した。

実体経済の動向

初回(11~12日)には、四半期ごとの執行部見通しが提示されたが、レーン理事はコロナウイルス問題の影響が一部しか反映されていないことを認めた。

このため執行部は、中国のコロナウイルス問題が第2四半期まで続くとともに、ユーロ圏での感染拡大も加速的に増加することを前提に、景気への影響がそれだけに止まる"mild"ケースと、金融市場や原油価格への波及効果も生ずる"severe"ケースの2つを提示し、2020年の成長率見通し(+0.8%)から、前者では0.6~0.9pp、後者では0.8~1.4ppの下押しになるとの推計を示した。

ただしレーン理事は、これらの推計は金融緩和や財政支出による押し上げ効果を考慮していないとして、やや楽観的な見方を示唆した。これに対し理事会メンバーは、もはや景気後退の可能性如何ではなく、その長さや深さが問題になっているとして、少なくとも短期的には厳しい見方を示した。

もっとも、コロナウイルス問題の結果として、中期的な経済見通しを修正すべきかどうかについては、現時点で判断しがたいとした。つまり、この問題による供給側の影響が深刻化したり長期化したりするリスクは大きいものの、流動性や資金調達の問題によって企業や銀行のバランスシートが毀損しない限りは全面的な危機にはならないとの指摘がなされた。

これに対して二回目(18日)の際には、レーン理事もコロナウイルス問題が近年にない公衆衛生上の緊急事態であるとし、ユーロ圏経済には大胆で協調的で緊急の政策対応が必要との認識を示した。これに対し理事会メンバーも、域内諸国による感染封じ込め策によって、家計も企業も支出を抑制するなど、経済状況が急速に悪化しているとしたほか、既に雇用の悪化が指標に反映されつつあると指摘した。

なお、物価に関しては、初回(11~12日)にはレーン理事が、原油価格の下落の影響に言及しつつも、コロナウイルス問題によるマクロ的な供給制約と、雇用や収益の低下による需要の減退が拮抗する可能性も指摘していた。ただし、上記のように執行部が示した二つのシナリオによれば、2020年のHICPインフレ率見通し(+1.1%)に対し、"mild"では0.2pp、"severe"では0.4~0.8ppの下押しになるとの推計も併せて示された。

これに対し理事会メンバーは、先行きの不透明性は高いものの、ショックは一時的であるとして、中期見通しの修正は不要とする意見と、原油価格の急落やショックの需要側への波及のリスクを踏まえて修正が必要との意見に分かれた。

政策判断

政策決定の詳細は別稿で説明したので割愛するが、初回(11~12日)の政策判断の背景についてレーン理事は、緩和的な金融環境の維持と金融政策の波及メカニズムの支持のため、①銀行部門の流動性の維持、②実体経済への与信の維持、③金融環境のpro-cyclicalなタイト化の防止の三点が必要であるとした。

これらがLTRO導入、TLTRO IIIの強化、資産買入れの強化に各々対応する。これに対し、問題は一時的であり、多様な手段で金融緩和を強化するので、政策金利の引下げは不要と主張し、利下げは金融政策の方向性を示す際に活用すべきと説明した。

これに対し、理事会メンバーは強力な対応が必要との点で合意したほか、上記の各手段の発動を幅広く支持した。もっとも、 LTROの導入に関しては貸出金利の低下に波及しない可能性、 TLTRO IIIの強化に関しては景気の悪化に直面する中小企業向けの与信に繋がらない可能性、資産買入れの強化に関しては所期の効果が問題終息後に実現する可能性が各々指摘された。

資産買入れの増加と政策金利の引下げとの比較については、前者を支持する向きが多く、後者の支持は数名(a few)にとどまった。もっとも前者に関しても、高格付国では既に長期金利が低位である中での更なる引下げに対する疑問が示されたほか、capital keyによる配分ルールに沿った買入れを行うと、こうした利回りの歪みが一層深刻化するとの指摘もみられた。

二回目(18日)の政策判断に関しては、レーン理事も初回時点では影響の大きさが不透明であったとし、市場機能の低下と分断への対応が必要との考えを示した。このような見方が、PEPPによる大規模な資産買入れの導入やCSPPによるCP買入れの開始、企業向け債務を中心とする適格担保の拡大につながった。

理事会メンバーは大胆で決定的な対応が必要との判断で一致し、すべての手段を発動する用意があるとのコミットメントに対する信認の維持や、市場の悲観心理のスパイラル防止にも寄与するとの考えを示した。

その上で理事会メンバーは各手段の発動を幅広く支持したが、 パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)に関しては、PSPPの強化やOMT(Outright Monetary Transactions)の活用を主張する向きもみられた。これに対しては、①一時的で強力な措置を講じるには新たな手段が必要、②OMTはユーロ離脱の思惑等によって、特定の国債市場に強いストレスが生じた際、金融政策の一体性を維持するために発動するもの、といった反論がなされた。

こうした反論はもっともであるが、これら各々の会合で、理事会メンバーがイタリア国民との団結を表明したり、ユーロ圏の全ての人々を助ける方針を確認したりしていることは、上記のOMTを巡る議論が必ずしも的外れでない可能性も示唆している。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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