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IMFによる4月の世界経済見通し(WEO)

2020/04/15

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はじめに

IMFは今回の世界経済見通し(WEO)で、2020年の世界経済の成長率が-3%まで落込み、2021年末になっても、先進国と途上国ともに前回(2020年1月)見通しに基づくGDPのパスに回帰しえないという厳しい見方を示した。記者会見の印象とともに内容を整理しておきたい。

ベースラインシナリオによる見通し

Covid-19の感染の深刻さや継続度合い、経済政策の効果や景気回復ペースに大きな不透明性があるだけに、今回のWEOはベースラインシナリオに加えて、リスクシナリオも検討している。

このうちベースラインシナリオは、ほとんどの国が本年第2四半期に深刻な事態に陥るが、本年後半には感染抑制策を徐々に解除するとの想定に基づき、本年全体では、感染の深刻な国で経済活動の8%(1か月分)、それ以外の国で5%が失われると仮定した。

この前提の下で、IMFは2020~21年の世界経済の成長率を-3% →+5.8%と予想した。2009~10年の成長率は-0.1%→+5.4%であったので、今回は文字通り「リーマンショックを超える」状況が予想される訳である。記者会見でゴピナチーフエコノミストは、 2020~21年に世界で失われるGDPが9兆ドルに達し、それは日本とドイツのGDPが丸ごと消滅するほどの規模であると説明した。

このうち先進国は、2020~21年が-6.1%→+4.5%と厳しい見通しとなった。なかでもユーロ圏は-7.5%→+4.7%と、2020年に極めて大きな減速が見込まれ、米国も-5.9%→+4.7%と厳しい状況が予想されている。日本は-5.2%→+3.0%とされたが、昨年後半の顕著な景気減速を考えると、2020年の成長率の低下よりも、 2021年の回復の弱さの方がむしろ気になる。

途上国は、2020~21年が-1.0%→+6.6%と先進国を上回る見通しが示されたが、ゴピナ氏が確認したように、途上国はもともと経済成長率が高く、前回(2020年1月)見通しに対する2020年の修正幅は-5.4ppと小さくない。しかも、早期の経済回復が見込まれる中国を除くと、2020年の成長率は-2.2%になるという厳しい推計も示された。

これらの見通しによる2021年第4四半期時点の先進国と途上国のGDP水準は、2019年第1四半期を100とした場合、先進国は100、途上国は110と推計された。前回(2020年1月)見通しでは、各々105弱、113強であったので、2021年末になっても元の成長パスに回帰できないとの見通しになっている。

リスクシナリオによる見通し

先行きに関する不透明性の高さを考慮して、IMFは三つのリスクシナリオを提示し、それに基づく成長率の推計を示している。

第一のシナリオは、ベースラインに比べて感染の終息までの時間が1.5倍になり、金融環境も相応にタイト化するとの想定である。 2020~21年の世界経済の成長率は、ベースラインに比べて各々約3ppおよび2pp強下方に乖離するが、そのインパクトは先進国と途上国で大きな差異はない。

第二のシナリオは、2021年に感染が再発し、2020年のベースライン対比で2/3のインパクトを与えるほか、金融環境もベースラインの2倍の悪化を示すとの想定である。2020年の世界経済の成長率はベースラインと同じになるが、21年はベースラインより5pp弱と大幅な下方乖離となる。ただし、インパクトは先進国と途上国で大きな差異はない。

第三のシナリオは、第一と第二の事態がともに生ずるとの想定である。2020~21年の世界経済の成長率は、ベースラインに比べて、各々約3ppおよび8pp弱の顕著な下方乖離となる。インパクトは、特に2021年に先進国の方が若干大きくなるが、総じてみれば先進国と途上国で大きな相違はない。

記者会見の質疑応答では、各地域の経済回復のパターンを質す向きがみられた。これに対しゴピナ氏は、中国では生産活動の回復が外需の緩やかな回復に制約を受けるとの見方を示しつつ、政策対応の余力が大きい点を好材料として示した。

これに対し欧州は、感染拡大に歯止めがかかりつつあるが、もともと景気が減速していたことに加え、観光や宿泊などのウエイトが相対的に大きく、金融システムに脆弱性を抱える国も存在することを挙げ、経済の回復力に対する懸念を示唆した。なお、米国は対照的に経済活動のモメンタムがもともと高かったことや、政策効果が2021年まで持続するとの見通しを示し、相対的に楽観的な見方を示唆した。

筆者は医療の専門家ではないので、シナリオの蓋然性を評価することはできない。ただし、BISもリスクシナリオとして「W字回復」による見通しを公表しているし、国内外の医療の専門家からも来年以降の再発リスクを示唆する発言が聞かれる。その意味では、リスクシナリオもtail eventとは言えないかもしれない。記者会見では上方リスクの如何を問う質問もあったが、ゴピナ氏はWE先行きのリスクは明確に下方に傾いているとの見方を示した。

政策対応

記者会見の冒頭説明でゴピナ氏が強調したことは、当然ながら各国がCovid-19の沈静化に全力を尽くすべきことであるが、加えて、感染対策と経済対策はトレードオフの関係にはなく、早期の終息が経済の早期回復に繋がることや、医療物資の調達などの面で先進国と途上国が協調すべきことにも言及した。

経済政策については、財政、金融、金融システムのすべての政策を発動すべきとしたほか、特に財政政策の面で国際協調が必要であることを強調した。途上国は医療だけでなく財政や金融システムにも脆弱性を有するので、先進国による支援が必要である点を確認するとともに、IMFも債務負担の減免等を通じた支援を行う方針を示した。

質疑応答では、数名の記者から、世界全体あるいは米国や欧州を念頭に、大規模な経済対策に伴う政府債務の増加に対する懸念が示された 。 これに対してゴピナ氏は、 政府債務のsustainabilityにとって金利環境が重要である点を説明した上で、中央銀行が低金利環境を維持することへの期待を表明した。

今回のような非常時には常識を捨てるべきなのであろうが、IMFの専門家がいわゆる「財政抑圧」を望ましい政策と説明したことは改めて感慨深い。奇跡的な高成長がない限り、今回の財政支出に伴う政府債務は時間をかけて返済する必要があるだけに、そうした状況も相応に長期化する可能性が高い訳である。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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