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変化するG20の意味合いを考える

2020/04/20

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はじめに

先週(15日)に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、低所得国による債務返済の猶予など重要な問題を議論したが、欧米メディアも含めて関心は高くなかった。その理由も考えながら、今後に期待される役割を検討したい。

世界金融危機との比較

G20が金融経済面で存在感を高めたのは、世界金融危機からの回復過程である。先進国は新興国の景気対策に依存せざるを得なかった一方、新興国は政治的なプレゼンスの向上を実現できたという意味で、G20は双方にメリットをもたらした。

今回は、先進国経済が深刻に悪化し、新興国経済にはばらつきもみられるが、今後は同様な状態に陥る恐れが強い。かねて拡散していた「自国第一主義」は、Covid-19対策の中で一層明確になった一方、一部国による他国の支援は政治色の強さによって警戒を招くなど、具体的な協調に向けた環境は厳しい。

一方でG7財務相・中央銀行会議は、Covid-19問題が最初に影響を与えた国際金融市場の安定化に関して、スワップによる米ドル資金の供給や国内での大規模な資金供給などの面で、一定の存在感を発揮した。この点もG20との違いを際立たせている。

低所得国の債務返済の猶予

しかし、今回のG20財務相・中央銀行総裁会議は、Covid-19問題への対応に関するIMFなどの国際機関による対応を追認しただけではない。おそらく最大の成果は、低所得国に対する債務返済の猶予に関する共通のアプローチに合意したことである。

こうした国々に対する債権者として大きな地位を占めるに至った中国については、G20のような多国間の枠組みと別に、債務国と独自の交渉を進めるとの見方が少なくなかった。実際、同国の専門家からはそうしたスタンスを支持する意見も示されていた。

これに対し他の先進国からは、債権国間での足並みの乱れが調整を複雑化するだけでなく、最悪の場合は先進国による返済猶予などによって債務国に生じた余裕資金が、中国からの借入れの返済原資として使用されるリスクも指摘されていた。

そうした中で、今回のG20財務相・中央銀行総裁会議の声明が、低所得国による債務返済の猶予に関して、G20の全メンバー国が、パリクラブで合意したアプローチ(債権国の要請に基づき、 Covid-19対策の資金捻出のために、本年5月~年末の返済を最大4年間<1年間の猶予を含む>にわたって繰延べ)に沿って対応することを明示できた点は大きな成果であった。

もちろん、このアプローチの成功には民間債権者の参加が必要である。声明文にはそうした期待が示されているが、欧米の民間債権者からは、各国一律の対応に反発が示されている。対策の緊要性を考えると、あくまで次善の策であるが、民間債権の規模が小さな国については、債権国政府または国際機関が一定のディスカウントで債権を買い取ることも選択肢となる。

国際金融における中国の位置づけ

低所得国の債務問題が改めて明らかにしたことは、中国の国際金融における影響力の上昇である。少なくとも世界金融危機の際には、債権国としての中国の対応が注目されることはなかったことを考えると、この間の「一帯一路」政策の展開やAIIBの設立と活動を含めて、状況は大きく変化した。

一方で、国際金融市場の不安定化とG7財務相・中央銀行総裁会議の対応が改めて浮き彫りにした点は、米ドルの国際通貨としての地位の盤石さである。昨年のジャクソンホール会合でBOEのカーニー総裁が取り上げたように、世界経済における米国のシェアの低下に拘らず米ドルの地位は頑健であった。

しかも、IMFが提唱したSDRの増発構想は、米国の強い反対によって現時点で頓挫している。ムニューシン財務長官が指摘するように、Quotaに沿った新規配分では、低所得国支援として意味が乏しいとしても、危機対策を通じて米ドルの国際通貨としての地位が徐々に切り崩されることへの警戒も強いように思われる。

国際金融の観点に限れば、焦点は米国が「世界の中央銀行」として米ドルの柔軟な供給を続けることに信認が置けるかという点である。今回はスワップやレポを通じて米ドル資金を海外に向けて幅広く供給した一方、SDR増発への反対理由として反米色の強い国への資金供給への懸念も指摘されている。

中国の金融システムの状況を考えると、資本勘定の自由化にはまだ時間を要するとみられるが、中国の国際金融におけるプレゼンスと国際通貨としての人民元は、今後もG20の大きなテーマになるものと思われる。

Covid-19対策としてのG20の役割

Covid-19問題に戻って、G20財務相・中央銀行総裁会議の役割を考えると、打撃を受けている産業やその雇用を支えるための金融財政政策の発動が最優先課題である現在の局面では、先に見た低所得国支援を除いては国際的な政策協調の余地は必ずしも大きくないようにみえる。

それでも、経済活動を徐々に回復させていく面では、いくつか重要な貢献が期待できる。

例えば、各国にとってグローバルなサプライチェーンがどの程度回復し、ボトルネックがどこにあるか正確に把握することは、経済政策を適切に運営する上で前提になる。この点は、通商や経済の担当大臣の守備範囲でもあるが、いずれにしてもG20の枠組みで主要な財のサプライチェーンに関する情報を共有し、必要に応じて問題解決に協力できれば、世界経済の回復を促進しうる。

より「本丸」に近い領域としては、先進国から新興国への資本フローの監視を強化することも重要である。現在は新興国からの資本流出局面にあるが、先進国が強力な金融緩和を継続する以上、経済状況が顕著に悪化した先を除く新興国は、やがてはsearch for yieldの復活による先進国からの大規模な資本流入に直面する可能性も小さくない。

先進国は今回の経験を踏まえて、シャドーバンキングによる資本フローへの監視を強めるとともに新興国と情報を共有し、新興国も為替レートの柔軟な運営などを通じて、自国内での資産価格高騰とその後の不安定化といった「二次的災害」を回避することが重要であり、G20はそのための枠組みを提供できる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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