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FRBによる企業支援策のその後

2020/05/03

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はじめに

FRBは既に実施していた中小企業向け支援策(PPP)の強化と、スキームの検討に時間を要していた中堅企業向け声援策の修正案を相次いで公表した。以前の本コラムで取り上げた経緯もあり、改めて内容を検討したい。

中小企業向け支援策(PPP)

Paycheck Protection Program(PPP)は、4月16日から実施に移されたが、条件を満たせば返済が免除されることもあって高い関心を集めたため、当初の枠(約3500億ドル)は早々に枯渇した。このため、連邦議会が他の政策対応とともに財源(約3100億ドル)の追加を議決し、4月27日から受付を再開している。

この間、審査を行う中小企業庁(SBA)のサイトが度々ダウンするといった技術的な問題に加えて、金融市場からの資金調達が可能である多くの公開企業が融資を受けていたことが判明し、ムニューシン財務長官やメディアの批判を受けて、一部の先が融資を返済するなど、政治的な問題も表面化している。

PPPにおいてFRBが果たす役割は、SBA保証付の融資(PPPローン)を実行した金融機関に対し、各地区連銀が当該融資を担保としたバックファイナンスを行うことである。4月30日にFRBは、再開されていたPPPに関して、スキームの強化を公表した訳である。

具体的には、①バックファイナスの相手を預金金融機関だけでなく、信用組合、地域開発金融機関や農業金融機関、SBAの認可を受けた中小企業金融業者、一部のfin-tech企業に拡大、②こうした先が他社から買い入れたPPPローンも担保として受入れ、の二点である。

なお、①に伴い、信用組合に対するバックファイナンスは引続き各地区連銀が担うことになった一方、それ以外については業態によって、クリーブランド、ミネアポリス、サンフランシスコの各地区連銀が分担して担うことになった。

このうち①は、銀行と取引関係のない企業を対象に取り込む効果が期待される。PPPローンについては、銀行が取引先企業を優先しているとの批判が多かっただけに、unbankedを取り込む上で有用である。また②は、規模の大きな金融機関が小口のPPPローンを買い集めてバックファイナンスを受けることを可能にする点で、小口融資でも本制度の適用を受けやすくすることにつながる。

中堅企業向け支援策(MSLF)

Main Street Loan Facility(MSLF)も4月9日に原案が示されたが、ニーズに適応したスキームとするためパブリックコメントを実施していた。FRBによれば2200件以上のコメントが寄せられ、その結果、4月30日に修正案が公表された(開始日は近日公表の予定)。

MSLFにおいてFRBが果たす役割は、金融機関が実行した貸出を買取るための特別目的会社(SPV)に対してバックファイナンスを行うことにある。こうしたバックファイナンスは、ボストン連銀が一元的に実施することになった。

原案からの変更点は多岐にわたるため、まず新たなスキームを概観しておくと、SPVによる買入れ対象となる貸出債権は、1)新規貸出(New Loan)、2)新規貸出の新カテゴリー(Priority Loan)、 3)追加貸出(Expanded Loan)の三つに分けられている。

これらはいずれも期間が4年だが、下限は1)と2)が50万ドルに対して、3)が100万ドル、上限は1)が25百万ドルまたはEDITDAの4倍、2)は25百万ドルまたはEBITDAの6倍、3)は200百万ドル、既存の債務残高の35%、EBITDAの6倍の各々小さい方の額とされた。

また、貸出を実行した金融機関は、1)と3)では元本の5%、2)では元本の15%をSPVに売却せずに保持(retention)しなければならない。一方、借り手企業は、いずれも1年の返済猶予を受けた上で、1)はその後3年で3分の1ずつ均等に、2)と3)はその後の3年で15%、15%、70%の割合で元本を返済しなければならない。

さらに、こうした貸出を受けることのできる企業は、これら三つのカテゴリーに共通して、3月13日以前に設立された米国法人または主要な事業や雇用を米国に有する法人で、雇用者数15千人以下、または年間売上げ50億ドル以下とされた。

これらを原案と比較すると、新規貸出の中に、金融機関がより大きな信用リスクを分担するカテゴリーとして、上記の2)が加えられたことがわかる。その分、2)は元本返済のパターンがtail heavyになっているほか、貸出上限額も柔軟になった。

他方で、原案では100万ドルであった1)の貸出下限額は、新設の2)とともに50万ドルに引き下げられたほか、1)と3)の貸出金利は原案ではSOFR+250~400bpであったものが、2)も含めてLibor (1か月または3か月)+300bpに変更された。

もう一つの大きな修正は、貸出を受けることのできる企業の規模を緩和したことであり、原案では1)と3)ともに雇用者数10千人以下、または年間売上高25億ドル以下であったが、修正後はすべてのカテゴリーに関して、雇用者数15千人以下、または年間売上げ50億ドル以下に拡大された訳である。

このほか、金融機関がSPVに支払う取引手数料およびSPVが金融機関に支払う貸出のサービシング手数料については、原案では1)と3)ともに各々100bpと25bpとされていたが、修正後は1)と2)はこれらの水準が適用された一方、3)については取引手数料が75bpに下げられた(サービシング手数料は不変)。

なお、ボストン連銀によるSPV向け貸出の期間(最長4年)や、財務省がSPVにエクイティとして出資する金額(750億ドル)およびSPVによる貸出債権の最大買入れ額(6000億ドル)には、修正後も変化がない。

上記の修正によって、MSLFの対象となる企業の規模は上下双方向に大きく拡大し、PPPローンの利用で批判を受けた公開企業もカバーしうるようになった。資金使途の面でも、配当や自社株買いに対するCARES法の制約や既存債務の返済への充当禁止といった条件はあるが、雇用の維持は「商業的に合理的」な範囲での努力目標に過ぎないなど柔軟性は高い。

膨大なコメントの成果もあってか、MSLFは借り手に配慮した方向での修正がなされた。なお、FRBの公表文は、経済活動における非営利法人の意義も認識し、別途の支援策を検討していることを表明しており、企業支援策は今後も拡充されることになる。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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