フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 6月FOMCのAccount-Prospects of YCT

6月FOMCのAccount-Prospects of YCT

2020/07/02

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

前回(6月)のFOMCでは、米国経済が4月を底に回復の兆しを見せている点を評価しつつも、先行きの不透明性は依然として極めて高いとの理解が共有された。一方、金融政策の見直しに関しては、再び中長期金利に関する誘導目標の可能性が議論された。

経済と物価の判断

FOMCメンバーは、Covid-19の感染状況とその対策が、米国経済を引続き大きく左右する状況にある点を確認した。

個人消費については、クレジットカードの使用状況のような高頻度情報によれば、底打ちないし緩やかな回復がみられるとし、失業保険給付の増強等が効果を挙げている可能性を指摘した。もっとも来年以降は、自発的なsocial distancingや予備的貯蓄、雇用の停滞等のため、力強い回復は望みにくいとした。

企業も不透明性のために設備投資を抑制しており、地方政府の財政逼迫によるインフラ投資の低迷や、エネルギー部門の不振も状況を悪化させているとの指摘がみられた。また、一部のメンバーは、Covid-19による需要の構造的シフトによって、企業の閉鎖や雇用の転換が生ずる可能性を指摘した。

雇用に関してFOMCメンバーは、5月統計が予想外の改善を示した点を確認したほか、失業保険の受給者のうち復職の可能性がある割合は前例になく高いとの見方も示した。もっとも、失業率が家計サーベイの調査の制約や政府の休業支援などのため実態を過小評価している恐れにも言及した。

一方、物価に関しては、Covid-19問題による供給制約よりも、需要に対する影響が大きく、結果としてディスインフレの効果を持つとの理解を確認した。このため、インフレ率は当面は目標を下回って推移する可能性が高いとしたほか、数名(some)のメンバーはインフレ期待の悪化のリスクに懸念を示した。

これらを踏まえ、FOMCメンバーは先行きに対する不透明性が依然として極めて高いとの理解を維持し、多くの(a number of)のメンバーは、感染の第二波が経済活動をより深くかつ長期にわたって抑制するリスクが相応に存在するとの見方を示した。また、財政支援が不十分なものに終わる可能性や海外経済の活動が低迷する可能性もリスク要因として指摘した。

長期的には、廃業の増加や失業期間の長期化のリスクが挙げられたほか、上記のような経済構造の転換プロセスでの生産性の低下やそれに伴う潜在成長率の停滞の可能性も指摘された。

金融市場の動向

執行部は、市場のリスク選好が全般的に改善した点を確認し、医療専門家による慎重な見方や米中摩擦の深刻化にも拘らず、足許の経済指標の改善を踏まえた景気の先行きに関する楽観論の台頭を背景として指摘した。

また、金融環境も総じて改善したが、中小企業や低格付企業にとっては依然としてタイトであるとした。この点に関しては、銀行による商工業貸付は顕著に増加しているが、その多くはPPPローンによるものであり、こうした制度融資以外では、銀行は中小企業に対する与信姿勢をタイト化しているとの評価も示した。

これに対し投資適格債の発行は、FRBによる社債買入れ策の公表もあって、極めて高水準で推移しているほか、ハイイールド債の発行も、3月の極めて低い水準から急回復した点を指摘した。

また、投資適格社債とハイイールド債との利回り格差も縮小したが、依然として高水準である点を確認したほか、米国債市場の流動性も総じて改善したが、off-the-run銘柄や超長期債はCovid-19問題の発生以前の状況には回復してないとの見方を示した。短期金融市場でも、財務省による前例のないペースでのTB発行も市場で円滑に消化されたと指摘した。

この間、モーゲージ貸出が5月には改善したが、credit scoreの低い家計の資金調達環境が悪化しているほか、銀行はhome equityの引出しを抑制していると説明した。一方、消費者ローンの減少については、家計による需要の減退による面が大きく、消費支出の大きな制約にはなっていないとの理解を示した。

政策判断

6月FOMCは金融政策の現状維持を決定したが、多く(many)のメンバーは、今後に経済見通しがより明確化した時点で、政策金利のフォワードガイダンスや資産買入れの運営方針をより明確化すべきと主張した。また、金融政策の見直しの終了を受けて、政策目標と政策戦略に関する声明の改定を行うことの重要性を確認した。

金融政策手段に関する検討

金融政策の見直しについては、6月FOMCでも再び政策手段に関する議論が行われ、①FRBが予て採用してきたフォワードガイダンス(FG)と資産買入れ(AP)との組み合わせ、②中長期金利に対する目標設定の二点が取り上げられた。

①についてFOMCメンバーは、ELBの下で有効な対応であるとの理解を確認した。また、多く(a number of)のメンバーが物価に条件づけたFGに支持を表明し、インフレ目標の対称性をアピールする上で有効とした。一方、2名(a couple of)のメンバーが雇用、数名(a few)が時間に各々条件づけたFGを支持し、各々雇用の最大化への貢献やFRBによる実績を指摘した。

②については、執行部がFRBによる過去のペッグ政策、日銀とRBAによる先例を説明したのに対し、FOMCメンバーはRBAのように中短期ゾーンを念頭にフォワードガイダンスと補完的な位置づけとすることが現実的との理解を示した。なお、市場金利の上昇抑制を主眼とする観点からか、こうした政策を「イールド・キャップまたはターゲット(YCT)」と称した。

YCTには慎重論が多かった。多く(many)のメンバーは、FGが信認を得ているのにYCTを追加する意味が不透明としたほか、特にexitが近づいた際に、FRBのバランスシートの規模や構成に対するリスクが大きいと指摘した。また、財政との関係での中央銀行の独立性や、国債市場の機能への影響にも言及がなされた。

それでも、FOMCメンバー全員がYCTの設計や運用、それに伴う影響についてより詳細な分析を行うことが有用との点に合意したことは、ELBの長期化の蓋然性が高まる下で、更なるショックに備えることの必要性が共有されているからであろう。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn