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9月FOMCのMinutes―Uneven recovery

2020/10/08

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はじめに

9月FOMCは、消費と設備投資の双方の回復とそれを支える金融仲介の改善を確認しつつも、そうした動きに取り残される領域が存在するとの懸念も共有した。この間、FRBの政策対応が所期の効果を発揮していると評価する一方、政府の追加経済対策が遅延ないし縮小した場合の影響に懸念を示した。

景気や物価の判断と見通し

FOMCメンバーは、足許の景気回復が予想より早いとの認識を示した。特に消費支出は自動車を含む耐久財を中心に急速に回復し、以前の減少の3/4を取り戻したと評価したほか、執行部も、中古住宅販売を中心に住宅支出も拡大を続けていると指摘した。

一方でFOMCメンバーは、旅行、宿泊、外食等への支出は低調であり、景気回復を抑制するとの懸念も示した。貯蓄の増加についても、今後の支出拡大を期待する見方と、対面接触を伴うサービス支出の抑制に伴う結果として継続するとの見方に分かれた。

設備投資についても、資本財の受注や販売の改善を踏まえて回復の動きを確認したが、自動車を含む耐久財産業での回復と、対面接触を伴うサービス業や商業不動産などの停滞が対照的との認識も示した。また、企業経営者は、今後の不透明性に加え、サプライチェーンの毀損やCovid-19感染を恐れる就労姿勢の消極化に悩んでいるとの指摘もあった。

FOMCメンバーは、雇用の回復も予想を上回り、以前の失業の1/2を取り戻したと評価した。もっとも、数名(several)のメンバーは、この間の回復はレイオフの解除による面が大きいとし、残りのレイオフが恒久化するリスクを指摘した。また、Covid-19の影響が、低所得層や特定の人種層に集中していることにも懸念を示した。

これらの議論を踏まえ、FOMCメンバーは景気の先行きに関する不透明性は高く、リスクは下方に傾いているとの判断を維持した。すなわち、広範な経済活動停止のリスクは低下したが、 Covid-19感染の再拡大が景気回復を抑制したり、企業破綻の増加を通じて金融仲介の低下を招くリスクを指摘した。

また、多くの(many)メンバーは、これまでの財政支出が景気回復に大きな役割を果たしてきたとした上で、今後は家計や企業、地方政府に対して十分な支援をもたらさない可能性に懸念を示した。さらに数名(several)のメンバーは、リストラの必要な産業での中長期的な雇用抑制の影響にも注意を促した。

なお、FOMCメンバーは、インフレ率も予想よりも早く改善している点を確認したほか、執行部は耐久財の需要増による面があるとの理解を示した。それでも、インフレ率や市場ベースのインフレ期待は低位であり、Covid-19の影響は全体としてディスインフレ的との理解を維持した。また、数名(several)のメンバーは、足許の技術革新が企業の価格設定力を中期的に抑制する可能性にも注意を促した。

金融環境と金融仲介の評価

FOMCメンバーは、金融環境は総じて緩和的であり、FRBが財務省と連携した実施した家計や企業向け与信の支援策を含めて、政策対応の効果を前向きに評価した。執行部も、社債やCPのクレジットスプレッドが低位で安定していると評価したほか、新株の発行や主として借換えを目的とした社債の発行が引続き極めて高水準で推移している点を指摘した。

もっとも、FOMCメンバーも、信用リスクや資金調達環境には依然としてばらつきが大きいとの認識も示した。具体的には、社債の格下げペースは足許で減速しつつあるが、企業向け貸出の返済延滞は顕著に増加している一方、銀行も与信姿勢を厳格化している点を指摘した。執行部も、中小企業の資金需要が依然として強い中で、資金調達環境がタイトであるとの見方を示した。

また、執行部はCMBSのクレジットスプレッドが縮小を続ける中で、 Agency CMBSの発行が極めて高水準にある点を指摘した。その一方で、銀行の商業不動産貸出は弱い動きを続けているほか、数名(several)のFOMCメンバーは、中小企業向け貸出や商業不動産向け貸出のデフォルトの増加によって、中小銀行にストレスが生ずるとの懸念を示した。

政策判断

9月FOMCで示されたメンバーの経済見通しは、予想より早い回復の動きを映じて2020年の経済成長率やインフレ率を上方修正したが、それ以降のシナリオには大きな変化は見られない。

つまり、経済活動の再開に伴って緩やかな回復が続くが、雇用を中心にslackが残存するほか、Covid-19の展開に伴う不透明性が高いというものである。また、経済見通しは政府の追加経済対策の実施を見込んでいるだけに、執行部とFOMCメンバーとも、遅延や縮小が生じた場合の影響に懸念を示している。

こうした認識の下で、9月FOMCは金融緩和の現状維持を決定するとともに、今後も必要に応じてあらゆる政策手段を行使する用意があるとの考えを確認した。このため、最大の課題は、8月下旬に公表した政策運営の新たな戦略を具体的に示す点にあった訳である。

焦点は、「緩やかな平均インフレ目標」を新たなフォワードガイダンスとしてどう示すかであったが、「インフレ率が2%に達し、当面は2%をやや超える方向にある」まで、現状の政策金利を維持するとの表現が最終的に採用された。FOMCメンバーの多数派は、無条件のコミットメントでない点を確認するとともに、今後の経済指標如何でゼロ金利政策の継続期間に対する予想が調整される効果に期待を示した。

これに対し2名のメンバーが正反対の立場から反対票を投じたが、議論の中では多くのメンバーが異論を示したようだ。具体的には、 2名(a couple of)のメンバーが、実際のインフレ率が長期にわたって目標を下回っているだけに、「インフレ率がしばらく2%を超えるまで」という強い表現が必要と主張した。

これに対し数名(several)のメンバーは、政策運営の新たな戦略を明記することの有用性を認めつつ、長期金利が既に低位である下でフォワードガイダンスを強化することの効果に疑問を示したほか、金融面での不均衡への対応を含め、FRBの政策運営の柔軟性を阻害するとの懸念を示した。

政策運営の戦略見直しについては、一部のメンバーが提起した資産買入れの運営方針の明記の如何も含めて、FOMC内での議論の消化がもう少し必要であるように見える。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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