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イランが対米報復措置を始める

2020/01/08

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市場の楽観論を打ち砕いたイランの報復措置

イランは1月8日(日本時間)、米軍とイラク軍が共有するイラクの空軍基地2か所に対して、ロケット弾攻撃を実施した。米軍によるイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官殺害に対する、イラン側の最初の報復措置だ。

ソレイマニ司令官殺害の直後から、イランは米国に対する報復を明言していた。この点から、今回の攻撃は十分に予想されていたことだったはずだ。それにも関わらず、報復措置を受けて金融市場は、原油高、円高、株安方向に敏感な反応を示している。

その背景には、①イランが報復を口にしつつも、軍事力で圧倒的に優位にある米国との軍事的な対立を避けたいと考えている、②米国のソレイマニ司令官殺害に対して各国で批判が高まる中、イランが報復を控えれば、国際世論を味方につけることができる、ことから当面イランは報復を行わない、との見方が市場には相応にあった、ということがある。7日にソレイマニ司令官の追悼儀式を終え、喪が明けた直後の、いわば最短のタイミングで報復攻撃がなされたことからは、イラン側の躊躇いを感じとることはできない。市場の楽観論は打ち砕かれたのである。

米国は、イランからの攻撃に対して、それを上回る規模での報復措置を講じることを既に明言している。米国から何らかの報復措置が実施される可能性は高いだろう。

イランの報復措置の選択肢

イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は7日に、米国に対する報復には「13のシナリオ」があるとし、最も弱い手段でも米国には歴史的な悪夢になるだろうと警告していた。今回の攻撃は、一連の報復措置の第1弾と位置付けられ、同氏の言う最も弱い手段だったのではないか。

イラン側はさらに規模を拡大させて追加的な報復措置を実施する考えだろう。その結果、しばらくの間はイランと米国の間で報復措置の応酬が繰り返される可能性は高まったように見える。ただし、実際にどの程度エスカレートしていくか、その鍵はイラン側が握っている。

シャムハニ事務局長は13のシナリオの中身について明らかにしていないが、今後のイラン側の報復措置については、幾つかの可能性が考えられる。

第1は、イラクへの攻撃継続である。当面の主戦場はイラクになると見られるが、今回のような米国軍事施設へのイランからの攻撃、イラクの親イラン・シーア派武装勢力を使った米国関連施設への攻撃、などがあり得る。

第2は、イラク以外の中東地域にある米国軍事施設への攻撃だ。米国は、クウェート、バーレーン、カタール等に相応規模の軍事拠点を持っている。それらが標的となり得るだろう。

第3は、サイバー攻撃だ。イランは欧米の主要なインフラをサイバー攻撃する能力を持っているとされる。ダムや発電所などが、その標的になり得る。

第4は、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖である。これによって原油価格が高騰すれば、米国経済に打撃を与えることができる。ただし、原油の調達に大きな支障が生じる場合、輸入原油の約8割がホルムズ海峡を経由する日本の方が、米国が被る経済的打撃よりも大きくなるだろう。

第5は、イスラエルに対するロケット砲や迫撃砲弾による攻撃だ。イランはイスラエルを米国の手先とみなしているためである。その場合には強力な軍事力を持つイスラエルからの強い反撃が予想される。事態は、イランと米国との対立から中東地域全体の紛争拡大へと発展しかねない。

第6は、イランが中東諸国に散らばるシーア派支援組織、例えばイエメンのシーア派の反政府武装組織フーシ派、イラクのシーア派武装勢力、レバノンのシーア派政党・武装組織ヒズボラなどを集結させ、米国あるいは親米諸国に対する軍事行動を拡大させることだ。この場合も、中東地域全体の紛争拡大へと発展しかねない。

双方ともに短期的な収束を望んでいるだろうが

今回の攻撃の後にイランの外相は、これは自衛措置であり戦争を求めてないとの声明を出している。トランプ政権も報復措置を即座に実施することは控えるなど、双方に一定の自制は見られる。

当面のところは、報復措置の応酬がある程度進むとしても、その後には全面的な軍事対立を回避すべく、双方が落ち着きどころを探る展開となることが予想される。それは、イランにとっては国の存亡のために必要である。米トランプ政権にとっては、短期的な報復行動は米国民から支持され、国民の目を弾劾裁判からそらすことに貢献する可能性がある。しかし、イランとの軍事的対立が長期化、泥沼化していき、大統領選挙時の公約に反して中東地域への軍事力投入が続けば、国民からの支持を失い、大統領選挙にも逆風となるだろう。

この点から、双方ともに短期的な収束を望んでいると思われる。しかしながら、双方ともに全面的な軍事的対立を回避したいと考えながらも、両国がコントロールできない形で軍事的対立が継続、拡大してしまう可能性があることは、歴史が教えるところでもある。

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