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中国の為替操作国解除も米政権のドル安志向は継続か

2020/01/14

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米中部分合意の署名直前に為替操作国認定を解除

米財務省は13日に半期為替報告書を公表したが、その中で、中国に対する「為替操作国」の認定を5カ月ぶりに解除した。15日には米中貿易交渉の「第1段階」の合意、いわゆる部分合意が両国によって署名される。この合意には、中国側が通貨安誘導を控えることを約束する内容が含まれる見通しだ。これを受け、両国の対立緩和を演出する狙いも込めて、今回米政府は署名直前のこのタイミングで、中国の為替操作国認定の解除を決めたのである。ムニューシン財務長官は、「中国は為替政策の透明性と説明責任を果たしつつ、人民元の競争的な切り下げを控えるという強制力のある約束を行った」と、中国側の姿勢を評価した。

中国の為替操作国認定には根拠が不透明な部分も

昨年8月に、貿易政策を巡る米中間での対立が強まる局面で、米政府は中国を1994年以来25年ぶりに為替操作国に認定した。しかしこの認定はかなり異例づくめであり、その根拠が明確でないという問題があった。

為替操作国の認定は、米財務省が定例で公表する半期為替報告書の中で示されるのが通例であるが、この場合は、それと異なるタイミングで発表されたのである。貿易を巡る米中対立が激化する中、中国人民元は下落し、2008年以来となる7元台に達した。この人民元安は、実際には、米中対立の激化を受けた市場の反応によるところが大きかったと考えられるが、トランプ政権は中国政府による人民元安誘導策の可能性もあると考え、為替操作国の認定に踏み切ったと見られる。

また、米財務省が従来から示してきた基準を中国が満たしていない中で、為替操作国の認定を決めたことも、その決定の透明性、妥当性に疑問を生じさせるものであった。

米財務省が示す為替操作国認定の基準は、①財の貿易黒字について、過去4四半期合計の対米黒字額が200億ドル以上、②経常黒字額が対GDP比で2%以上、③為替介入による外貨の買い入れが過去12カ月合計でGDPの2%以上、の3点である。この中で、中国が該当するのは①のみであった。ちなみに日本は、①と②の基準を満たしている。

このように、やや強引に決定された中国の為替操作国認定については、米国内からも批判が出ており、それが今回の解除につながった面もあるだろう。

日米の為替を巡る対立のリスクは残る

15日に予定されている米中部分合意の署名によって、米中間の貿易を巡る激しい対立もとりあえず一時休戦の状態に至った感がある。米中間の為替を巡る対立についても、今回の為替操作国認定の解除によって同じく一時休戦の状態となろう。

しかしながら、米国と中国以外の国との間での為替を巡る対立が生じるリスクは、依然として残されている。米国の対中貿易赤字には縮小傾向が見られているが、貿易赤字全体では縮小傾向は未だ確認できない。

トランプ政権は、他国が金融緩和などを通じて自国通貨を不当に安くしていることが、米国の巨額な貿易赤字の原因であると考えている。この点から、大統領選挙に向けた戦略の一環として、トランプ政権がドル売りの単独為替介入を通じてドル安誘導を図る可能性が残されている。さらに、日本や欧州に対して、金融緩和を通じて不当に自国通貨安誘導を行ってきたと批判する可能性もあるだろう。

中国の為替操作国認定の解除を受けて、為替市場は円安・ドル高に振れている。しかし、こうしたトランプ政権の姿勢は、先行き円高ドル安傾向を強めることになりかねない。日本経済や金融市場の安定を損ねるリスクの一つとして意識しておかねばならないだろう。

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