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米中貿易戦争は米大統領選挙までのつかの間の休戦

2020/01/16

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米中部分合意は世界経済、日本経済にプラス

米国政府と中国政府は1月15日に、予定されていた通りに貿易協定の第1段階の合意、いわゆる部合意に署名をした。合意文書には、中国が米国からの輸入を2,000億ドル拡大させる計画が盛り込まれた。

事前に報じられていたところでは、中国は向こう2年間で、米国で製造された製品の輸入を2017年比で約800億ドル、エネルギー関連で500億ドル強、サービスで約350億ドル、農産品で約320億ドルそれぞれ購入を拡大するという。農産品の購入拡大は1年あたりおよそ160億ドルとなり、17年実績の240億ドルと合算すると、トランプ米大統領が目標としていた400億ドルとなる。

2018年以来の両国間での激しい貿易摩擦はここでとりあえず節目を迎え、少なくとも今年11月の米大統領選挙までは一種の休戦状態に入ることになるだろう。今回の部分合意は、自国経済への悪影響を懸念する中国政府と、2020年の米大統領選挙を睨んで農産物の輸出拡大という成果をトランプ大統領の支持基盤である農家にアピールしたいトランプ政権との間の利害の一致によって、実現したものだ。

米財務長官は、今回の合意は米国のGDPを0.5%~0.75%程度押し上げるとしている。仮に米国のGDPの変化が日本にとっての海外需要全体に50%の影響を与えると仮定した場合、今回の合意は米国のGDPの変化を通じて日本のGDPを1年間の累積効果で0.10%~0.14%押し上げる計算となる(内閣府、短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)による)。米中部分合意は、世界及び日本経済に相応のプラスの効果をもたらすことが期待できる。

トランプ政権は中国・国家資本主義の早期変革を断念

トランプ大統領は、第1段階の合意が発効し次第、第2段階の合意に向けた協議を米中間で始める、としているが、実際にはその可能性は低いのではないか。

協議を本格化させれば再び米中間の対立が生じることが避けられず、その場合にトランプ大統領は、第1段階の合意という政治成果を台無しにする可能性もあるためだ。

第2段階の協議では、中国の「国家資本主義」の変革が大きなテーマとなるが、それに対する中国政府の抵抗は強い。トランプ政権が国有企業、巨額の産業補助金などの改革を含む全面的な米中協議の完全合意を断念し、今回部分合意を目指したのは、「国家資本主義」の修正を巡る中国政府の抵抗が非常に強いことを、協議を通じて理解したからに他ならない。

追加の関税率引き下げや撤廃は当面ない

米国の対中追加関税第4弾で追加関税率を適用したスマートウォッチなど、1,200億ドル分の税率については、現行15%を7.5%に引き下げることが今回の合意に含まれた。制裁措置の緩和は、米中貿易摩擦が激化した2018年7月以来では初めてのことだ。実際の引き下げは、署名から30日後になるという。

しかし現時点では、それ以外の追加関税については、税率引下げや撤廃は実施されない。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、追加関税率のさらなる引き下げは、今回の第1段階の合意についての中国側の履行状況を見極めたうえで、大統領選挙後に判断する、としている。

またトランプ大統領は、「第2段階の合意を終えれば、(対中追加)関税は直ちに全廃される」としている。この発言は、現時点では、中国政府が要求している追加関税の全廃は実施する考えがないことを意味している。

しかし、中国が米国からの輸入を約束通りに2,000億ドル分拡大させることは、かなり難しいのではないか。米国側としては実現が難しいことを承知で、中国側に過大な約束をさせたのではないか。他方で中国側は、仮にその約束が果たせなくても、トランプ大統領が大統領選挙で敗れれば、その約束の履行は厳しく検証されない、と考えているのかもしれない。

対中圧力は継続させる戦略

トランプ政権は、大統領選挙に向けて、中国に米国からの大幅な輸入拡大を約束させたという成果を国民に強くアピールする戦略だ。他方、国内での対中強硬派に対しては、追加関税率を維持することで中国側への圧力は続ける、と説明する、いわば両面作戦をとるのではないか。

トランプ政権の対中強硬姿勢が維持されることを示す例としては、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)に対する海外製品の販売制限を強化することもある。米商務省は昨年5月に安全保障上の理由からファーウェイを「エンティティーリスト」に追加した。そのうえで、同社に対する米国製品の販売と米国の技術を利用している一部の海外製品の販売を制限している。この規制の下では、米国製部品が商品価値の25%を超える多くのハイテク製品について、他国から中国への輸出を制限できる。この基準を10%に引き下げ、さらに輸出制限の対象を家電などのローテク製品に拡大することが政権内で検討されており、近日中に正式に発表されると報じられている。

米大統領選挙までの間は、米中間の対立は一時休戦となろうが、対立の構図が解消されるめどは立っていない。大統領選挙後は再び米国政府が中国側に対する圧力を強化して、激しい対立が再燃する可能性があるだろう。

また、党派に限らず米議会では対中強硬の機運が極めて強いことを踏まえれば、仮に政権交代が生じても、米中の対立が解消に向かうとは考えにくい。

米中の対立緩和は、米大統領選挙までのつかの間の休戦に過ぎない。

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